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13話 リヒトと辺境伯2
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「シュナイエン辺境伯…様…?」
<ああ… あの時、殿下と話していた人… この人が処刑を止めに入って、それから… それから…!>
ボンヤリと美丈夫を見上げ、リヒトは記憶をたどった。
「アナタは私の… ご主人様なのですね?」
ギュッと瞳を閉じて…
リヒトは静かに不愉快な記憶の衝撃が和らぐのを待った。
「そうだ」
チラリとリヒトを見下ろし、シルトはまた前方に視線を戻した。
「・・・・・」
<虚しくて、情けなくて… 泣きたいような… 笑ってしまいたいような…>
リヒトは顔を伏せ… また、ため息をついた。
「お前はオメガだが騎士として魔獣退治に参加させる… 魔法は得意なのだろう?」
前方を見たまま素っ気なくシルトは、リヒトに役目を与えた。
「はい」
<ああ… そう言えばこの人は、刑場で騎士不足だと言っていた…>
「魔獣を、実際に見たことはあるか?」
「はい、父の友人がいる東方の地で1度だけですが… 王妃になるのだから、見るべきだと父… 公爵に言われて」
『王都から出て行け!! お前は北方の地で死ね!!』
プファオ公爵家存続の為に、言ったのは理解できるが…
父の言葉が刃となって胸に突き刺さり、リヒトはその痛みで死にたくなった。
だが実際には、奴隷紋に自害すら防止する魔法が組み込まれている為…
簡単にリヒトは死ぬことも出来ないのだ。
<処刑と奴隷紋付きで北方に流刑では、明らかに刑の重さが違う… 長男の私が王都で処刑されれば、公爵家は後々その汚名まで継承して行くことになる…>
弟ヴァルムの為にも、リヒトはこれで良かったのだと何とか納得しようとするが…
本当に父に捨てられたのだという深い闇が、リヒトの中でドンドン広がってしまうのだ。
<恨みたくないのに、いつか父上を恨んでしまいそうで怖い…>
「そんな顔をするなリヒト! 良かったではないか、あんなウジ虫と結婚しなくて済んで!!」
慰めようとシルトは明るい声でリヒトに笑い掛ける。
「…?!」
自己憐憫に浸り、泥沼に沈み込みそうになっていたリヒトは…
不意に声を掛けられ顔を上げた。
「私の方が、何倍も良い男だぞ?」
ニヤリと笑う美丈夫は、リヒトが知る限り滅多に見ない美男子だ。
「…はい」
不器用だが慰めようとする、シルトの気持ちをくみ取り…
ぎこちなくリヒトは笑った。
「確かに殿下と結婚しなくて済むのは、良いことかも知れませんね」
<奴隷の身分に落ちてしまったけど>
今日が初対面の人なのに、自分の主がシルトで良かったとリヒトも感じている。
いつも父がシュナイエン辺境伯、を尊敬すべき人物だと褒め称えていたからだ。
<それにこの方から… とても芳しいウットリするような… これはアルファのフェロモン?!>
リヒトはオメガの発情と、フェロモンを抑えるのと同時に…
婚約者フリーゲ以外のフェロモンを感じ取るのは不貞行為だと考え、アルファのフェロモンを感じ取れないよう、リヒトはずっと感覚器官まで魔法で制御していた。
その魔法の効力が、性奴隷紋の影響で消えた、今…
生まれて初めてリヒトは成熟した大人のアルファが放つ、フェロモンを感じ取っている。
思わず…
シルトの広い胸に鼻をこすり付け、リヒトは胸を大きくふくらませ深呼吸をしてしまう。
リヒトの可愛い仕草に気付き、シルトは黙ったまま唇をほころばせ、その微笑ましい姿を愛でた。
<ああ… あの時、殿下と話していた人… この人が処刑を止めに入って、それから… それから…!>
ボンヤリと美丈夫を見上げ、リヒトは記憶をたどった。
「アナタは私の… ご主人様なのですね?」
ギュッと瞳を閉じて…
リヒトは静かに不愉快な記憶の衝撃が和らぐのを待った。
「そうだ」
チラリとリヒトを見下ろし、シルトはまた前方に視線を戻した。
「・・・・・」
<虚しくて、情けなくて… 泣きたいような… 笑ってしまいたいような…>
リヒトは顔を伏せ… また、ため息をついた。
「お前はオメガだが騎士として魔獣退治に参加させる… 魔法は得意なのだろう?」
前方を見たまま素っ気なくシルトは、リヒトに役目を与えた。
「はい」
<ああ… そう言えばこの人は、刑場で騎士不足だと言っていた…>
「魔獣を、実際に見たことはあるか?」
「はい、父の友人がいる東方の地で1度だけですが… 王妃になるのだから、見るべきだと父… 公爵に言われて」
『王都から出て行け!! お前は北方の地で死ね!!』
プファオ公爵家存続の為に、言ったのは理解できるが…
父の言葉が刃となって胸に突き刺さり、リヒトはその痛みで死にたくなった。
だが実際には、奴隷紋に自害すら防止する魔法が組み込まれている為…
簡単にリヒトは死ぬことも出来ないのだ。
<処刑と奴隷紋付きで北方に流刑では、明らかに刑の重さが違う… 長男の私が王都で処刑されれば、公爵家は後々その汚名まで継承して行くことになる…>
弟ヴァルムの為にも、リヒトはこれで良かったのだと何とか納得しようとするが…
本当に父に捨てられたのだという深い闇が、リヒトの中でドンドン広がってしまうのだ。
<恨みたくないのに、いつか父上を恨んでしまいそうで怖い…>
「そんな顔をするなリヒト! 良かったではないか、あんなウジ虫と結婚しなくて済んで!!」
慰めようとシルトは明るい声でリヒトに笑い掛ける。
「…?!」
自己憐憫に浸り、泥沼に沈み込みそうになっていたリヒトは…
不意に声を掛けられ顔を上げた。
「私の方が、何倍も良い男だぞ?」
ニヤリと笑う美丈夫は、リヒトが知る限り滅多に見ない美男子だ。
「…はい」
不器用だが慰めようとする、シルトの気持ちをくみ取り…
ぎこちなくリヒトは笑った。
「確かに殿下と結婚しなくて済むのは、良いことかも知れませんね」
<奴隷の身分に落ちてしまったけど>
今日が初対面の人なのに、自分の主がシルトで良かったとリヒトも感じている。
いつも父がシュナイエン辺境伯、を尊敬すべき人物だと褒め称えていたからだ。
<それにこの方から… とても芳しいウットリするような… これはアルファのフェロモン?!>
リヒトはオメガの発情と、フェロモンを抑えるのと同時に…
婚約者フリーゲ以外のフェロモンを感じ取るのは不貞行為だと考え、アルファのフェロモンを感じ取れないよう、リヒトはずっと感覚器官まで魔法で制御していた。
その魔法の効力が、性奴隷紋の影響で消えた、今…
生まれて初めてリヒトは成熟した大人のアルファが放つ、フェロモンを感じ取っている。
思わず…
シルトの広い胸に鼻をこすり付け、リヒトは胸を大きくふくらませ深呼吸をしてしまう。
リヒトの可愛い仕草に気付き、シルトは黙ったまま唇をほころばせ、その微笑ましい姿を愛でた。
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