上 下
7 / 178

6話 花の令息の価値 シルトside

しおりを挟む
「はい、新たに婚約されたギフト様への暴行と悪質な嫌がらせをしたと…」

 忙しなく手をゴシゴシと擦りながら、使いの者は語った。


「女神の神託で選ばれた者が、暴行をした?」
<浮気をされて嫉妬に狂い、浮気相手に暴行したと言うのなら、悪いのは全部王太子ではないか! …そもそも、暴行したのが本当だとしても、女神が選んだ者を簡単に処刑するなど>

「はい」

「王太子は正気か?! 気でも狂ったのではないか?!」
 大きな独り言を、シルトは口に出した。

「!!」
 使いの者はシルトの不敬な発言にギョッ… としたが…
 何も、聞こえなかったフリをする。

「王太子は愚かで、間抜けだ!」
<女神の神託で選ばれる"花の令息" と呼ばれる者が王妃になると、最大限に女神の加護と祝福が受けられ、王妃を娶った国王の治世は繁栄すると言われているというのに!!>

 王太子の愚かさに対する不快感が強過ぎて、シルトは本音を隠すことさえ耐えられなかった。


「…!」
 使いの者は、また聞こえないフリをする。

「要らないのなら、私にくれれば良いのだ!!」
<私が知る限り"花の令息"が代々王妃になっているせいで… "花の令息" 以外の者を、この何百年間は娶った王がいないから、比較する対象が無いのも王太子が愚かになった原因かもしれないな?>

 ムッツリと腕組みをして、シルトは空になったティーカップを憎々し気に睨み付ける。

 王太子がしたことは、シルトには有り得ないことだった。


 魔窟まくつの森の近くで日々魔獣と戦い続ける、シルトたち北方を守護する騎士たちだからこそ…
 神殿で手に入れた聖水と神官たちの祈りの力が、治癒魔法では直せない魔獣の毒に侵された騎士たちの命を、幾度も救ったと知っている。

「何てバカバカしいことだ」
 大きなため息をつくと、諦めを込めてシルトは首を横に振った。

 王都の住人は魔獣の脅威にさらされたことが無いから、神殿や女神の力をおろそかにし過ぎるのだ。
 北方の騎士は皆、女神の力を信じていた。

「これ以上、時間を無駄には、出来ない!! 私は帰る!」
<どうやら予想通り、王太子は役立たずだ!! 自力で騎士を確保するしかないな… 王都まで来て手ぶらで帰るわけには行かないぞ!!>


 王太子に会うために、綺麗に整えた肩まである青銀色の髪をグシャグシャと手で掻き混ぜ、シルトは普段の無雑作な髪形に戻しながら腰を上げた。


「お力になれず、申し訳ございません 辺境伯様!!」
 使いの者は先回りし、サッと扉を開きシルトが廊下へ出ると…

 足早に立ち去るシルトの大きな背中に、内心ホッ… と胸を撫で下ろしながら、深々と頭を下げて見送った。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

月歌(ツキウタ)
BL
運命の番と巡り合う確率はとても低い。なのに、俺の婚約者のアルファが運命の番と巡り合ってしまった。運命の番が出逢った場合、二人が結ばれる措置として婚約破棄や離婚することが認められている。これは国の法律で、婚約破棄または離婚された人物には一生一人で生きていけるだけの年金が支給される。ただし、運命の番となった二人に関わることは一生禁じられ、破れば投獄されることも。 俺は年金をもらい実家暮らししている。だが、一人で暮らすのは辛いので婚活を始めることにした。

高級娼館の少年オーナーはカタブツ騎士団長を抱きたい。

雲丹はち
BL
――王国最大の娼館が違法な奴隷売買に関わっている。 その情報を得た騎士団長ゼル・ライコフは高級娼館に客として潜入する。 「ゲームをしよう。ぼくと君、イッた回数で勝負するんだ。簡単だろう?」 しかし少年オーナー、エルシャが持ちかけた勝負を断り切れず……!?

黒騎士はオメガの執事を溺愛する

金剛@キット
BL
レガロ伯爵邸でオメガのアスカルは先代当主の非嫡出子として生まれたが、養父の仕事を引き継ぎ執事となった。 そこへ黒騎士団の騎士団長アルファのグランデが、新しい当主レガロ伯爵となり、アスカルが勤める田舎の伯爵邸に訪れた。 アスカルは自分はベータだと嘘をつき、グランデに仕えるが… 領地にあらわれた魔獣退治中に運悪く魔道具が壊れ、発情の抑制魔法が使えなくなり、グランデの前で発情してしまう。 発情を抑えられないアスカルは、伯爵の寝室でグランデに抱かれ――― ※お話に都合の良いユルユル設定のオメガバースです。 😘溺愛イチャエロ濃いめのR18です! 苦手な方はご注意を! ツッコミどころ満載で、誤字脱字が猛烈に多いですが、どうか暖かい心でご容赦を_(._.)_☆彡

愛欲の炎に抱かれて

藤波蕚
BL
ベータの夫と政略結婚したオメガの理人。しかし夫には昔からの恋人が居て、ほとんど家に帰って来ない。 とある日、夫や理人の父の経営する会社の業界のパーティーに、パートナーとして参加する。そこで出会ったのは、ハーフリムの眼鏡をかけた怜悧な背の高い青年だった ▽追記 2023/09/15 感想にてご指摘頂いたので、登場人物の名前にふりがなをふりました

つがいの薔薇 オメガは傲慢伯爵の溺愛に濡れる

沖田弥子
BL
大須賀伯爵家の庭師である澪は、秘かに御曹司の晃久に憧れを抱いている。幼なじみの晃久に子どもの頃、花嫁になれと告げられたことが胸の奥に刻まれているからだ。しかし愛人の子である澪は日陰の身で、晃久は正妻の嫡男。異母兄弟で男同士なので叶わぬ夢と諦めていた。ある日、突然の体の疼きを感じた澪は、ふとしたことから晃久に抱かれてしまう。医師の長沢から、澪はオメガであり妊娠可能な体だと知らされて衝撃を受ける。オメガの運命と晃久への想いに揺れるが、パーティーで晃久に婚約者がいると知らされて――◆BL合戦夏の陣・ダリア文庫賞最終候補作品。◆スピンオフ「椿小路公爵家の秘めごと」椿小路公爵家の唯一の嫡男である安珠は、自身がオメガと知り苦悩していた。ある夜、自慰を行っている最中に下男の鴇に発見されて――

或る実験の記録

フロイライン
BL
謎の誘拐事件が多発する中、新人警官の吉岡直紀は、犯人グループの車を発見したが、自身も捕まり拉致されてしまう。

処理中です...