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6話 花の令息の価値 シルトside
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「はい、新たに婚約されたギフト様への暴行と悪質な嫌がらせをしたと…」
忙しなく手をゴシゴシと擦りながら、使いの者は語った。
「女神の神託で選ばれた者が、暴行をした?」
<浮気をされて嫉妬に狂い、浮気相手に暴行したと言うのなら、悪いのは全部王太子ではないか! …そもそも、暴行したのが本当だとしても、女神が選んだ者を簡単に処刑するなど>
「はい」
「王太子は正気か?! 気でも狂ったのではないか?!」
大きな独り言を、シルトは口に出した。
「!!」
使いの者はシルトの不敬な発言にギョッ… としたが…
何も、聞こえなかったフリをする。
「王太子は愚かで、間抜けだ!」
<女神の神託で選ばれる"花の令息" と呼ばれる者が王妃になると、最大限に女神の加護と祝福が受けられ、王妃を娶った国王の治世は繁栄すると言われているというのに!!>
王太子の愚かさに対する不快感が強過ぎて、シルトは本音を隠すことさえ耐えられなかった。
「…!」
使いの者は、また聞こえないフリをする。
「要らないのなら、私にくれれば良いのだ!!」
<私が知る限り"花の令息"が代々王妃になっているせいで… "花の令息" 以外の者を、この何百年間は娶った王がいないから、比較する対象が無いのも王太子が愚かになった原因かもしれないな?>
ムッツリと腕組みをして、シルトは空になったティーカップを憎々し気に睨み付ける。
王太子がしたことは、シルトには有り得ないことだった。
魔窟の森の近くで日々魔獣と戦い続ける、シルトたち北方を守護する騎士たちだからこそ…
神殿で手に入れた聖水と神官たちの祈りの力が、治癒魔法では直せない魔獣の毒に侵された騎士たちの命を、幾度も救ったと知っている。
「何てバカバカしいことだ」
大きなため息をつくと、諦めを込めてシルトは首を横に振った。
王都の住人は魔獣の脅威に曝されたことが無いから、神殿や女神の力をおろそかにし過ぎるのだ。
北方の騎士は皆、女神の力を信じていた。
「これ以上、時間を無駄には、出来ない!! 私は帰る!」
<どうやら予想通り、王太子は役立たずだ!! 自力で騎士を確保するしかないな… 王都まで来て手ぶらで帰るわけには行かないぞ!!>
王太子に会うために、綺麗に整えた肩まである青銀色の髪をグシャグシャと手で掻き混ぜ、シルトは普段の無雑作な髪形に戻しながら腰を上げた。
「お力になれず、申し訳ございません 辺境伯様!!」
使いの者は先回りし、サッと扉を開きシルトが廊下へ出ると…
足早に立ち去るシルトの大きな背中に、内心ホッ… と胸を撫で下ろしながら、深々と頭を下げて見送った。
忙しなく手をゴシゴシと擦りながら、使いの者は語った。
「女神の神託で選ばれた者が、暴行をした?」
<浮気をされて嫉妬に狂い、浮気相手に暴行したと言うのなら、悪いのは全部王太子ではないか! …そもそも、暴行したのが本当だとしても、女神が選んだ者を簡単に処刑するなど>
「はい」
「王太子は正気か?! 気でも狂ったのではないか?!」
大きな独り言を、シルトは口に出した。
「!!」
使いの者はシルトの不敬な発言にギョッ… としたが…
何も、聞こえなかったフリをする。
「王太子は愚かで、間抜けだ!」
<女神の神託で選ばれる"花の令息" と呼ばれる者が王妃になると、最大限に女神の加護と祝福が受けられ、王妃を娶った国王の治世は繁栄すると言われているというのに!!>
王太子の愚かさに対する不快感が強過ぎて、シルトは本音を隠すことさえ耐えられなかった。
「…!」
使いの者は、また聞こえないフリをする。
「要らないのなら、私にくれれば良いのだ!!」
<私が知る限り"花の令息"が代々王妃になっているせいで… "花の令息" 以外の者を、この何百年間は娶った王がいないから、比較する対象が無いのも王太子が愚かになった原因かもしれないな?>
ムッツリと腕組みをして、シルトは空になったティーカップを憎々し気に睨み付ける。
王太子がしたことは、シルトには有り得ないことだった。
魔窟の森の近くで日々魔獣と戦い続ける、シルトたち北方を守護する騎士たちだからこそ…
神殿で手に入れた聖水と神官たちの祈りの力が、治癒魔法では直せない魔獣の毒に侵された騎士たちの命を、幾度も救ったと知っている。
「何てバカバカしいことだ」
大きなため息をつくと、諦めを込めてシルトは首を横に振った。
王都の住人は魔獣の脅威に曝されたことが無いから、神殿や女神の力をおろそかにし過ぎるのだ。
北方の騎士は皆、女神の力を信じていた。
「これ以上、時間を無駄には、出来ない!! 私は帰る!」
<どうやら予想通り、王太子は役立たずだ!! 自力で騎士を確保するしかないな… 王都まで来て手ぶらで帰るわけには行かないぞ!!>
王太子に会うために、綺麗に整えた肩まである青銀色の髪をグシャグシャと手で掻き混ぜ、シルトは普段の無雑作な髪形に戻しながら腰を上げた。
「お力になれず、申し訳ございません 辺境伯様!!」
使いの者は先回りし、サッと扉を開きシルトが廊下へ出ると…
足早に立ち去るシルトの大きな背中に、内心ホッ… と胸を撫で下ろしながら、深々と頭を下げて見送った。
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