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5話 北方の現状 シルトside
しおりを挟むシュナイエン辺境伯、シルトの母フォーゲルは…
現国王陛下の今は亡き、王妃シュロスの姉である。
王宮の一室で、シルトは何時間も待たされ、いらだちが最高潮に達していた。
「殿下にはまだ、会えないのか?!」
剣で鍛えた硬い指先で、ティーカップが置かれた机を、コツコツと叩きながら、空色の瞳で伝言を伝えに来た王太子の使いを、殺気を込めて睨み付けた。
「申し訳ありません!! シュナイエン辺境伯様!! 王太子殿下は、とても忙しく…」
使いの者はソワソワと焦りながら、言い訳を必死で考えている様子だった。
「何故、そんなに忙しいのだ? オカシイでは無いか!」
大した仕事などしていないだろうと? とシルトは暗に仄めかした。
王太子は側妃が産んだ子で、シルトとは血のつながりは無い。
「そ… それは、私の口からは… どうかお許しください!」
「ダメだ、はっきり言え!! 今もこの瞬間に、北方の地では騎士たちが魔獣と戦い命を落としているかもしれぬのに、ダラダラとお前の言い訳など聞きたくない!!」
魔界に通じると言われる、北方に広がる魔窟の森から出現し続ける、魔獣を退治し守護するシュナイエン辺境伯シルトは…
慢性的な騎士不足を解消するべく、国王陛下に直訴をしに王都へ来ていたのだ。
シュメッターリング王国の中でも、北方は最も過酷な激戦地で…
この地をシュナイエン辺境伯が死守することで、中央にある王都へ魔獣が侵入するのを防いでいる。
魔獣の被害も、過酷だが…
何よりも1年じゅう雪に閉ざされた場所で、北方の地の厳しい寒さが騎士たちをさらに苦しめていた。
「昨日… 王太子殿下は婚約破棄をされまして、今はドウルヒファル男爵令息ギフト様と婚約を… その御2人は… あの…」
使いの者は気まずそうに、視線をあちらこちらと泳がせて…
何か良い言い訳は無いかと思案する。
「その新しい婚約者と、殿下は遊び呆けているのだな?」
「・・・・・」
使いの者は下を向き、沈黙することでシルトの質問を、肯定した。
「昨日婚約破棄をして、今日には別の婚約者がいるだと?!」
<王太子が浮気をしていたのは明白ではないか!! それで私が待たされるとは… ふざけるな!!>
「クソッ…!!」
ティーカップが乗ったテーブルを、シルトは罵りながら拳でドンッ…! と殴り付けた。
カチャンッ…! とティーカップが振動で跳ね…
使いの者も、ヒイッ… と小さな悲鳴を上げ、ビクッ… と跳ねた。
「王太子の婚約者とは、神託で決められた"花の令息" の称号を持つ者では無かったか?」
自分の叔母も女神の神託で決められた王妃だった為、シルトはその辺の細かな事情に詳しいのだ。
「はい、プファオ公爵家長男リヒト様です… ですが… 明日、処刑が、決まりまして…」
考えただけで、恐ろしいと言いたげに…
使いの者は怯えながら暗い顔で説明した。
「プファオ公爵の息子だと?! 王太子殿下は公爵の息子を… 自分の元婚約者を処刑すると言うのか?」
息子の方は知らないが、シルトは父親のプファオ公爵のことなら知っている。
国王陛下に紹介され、何度か騎士を北方に派遣してくれた、恩人だからだ。
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