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3話 王妃の資質

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 悪夢の卒業パーティーの翌日…
 プファオ公爵邸の自室で謹慎していたリヒトは書斎に呼ばれた。


 重厚な執務机に着く、リヒトによく似た面差しと孔雀色の髪を持つ、父プファオ公爵の前で…
 リヒトは生真面目に、直立不動の姿勢を取る。

「私が、お前を呼んだ意味が、分かっているな?」
 父親とは思えない冷淡な声で、プファオ公爵は一切の表情を消してリヒトを眺めた。
 
「はい、王太子殿下が私に押し付けた、冤罪えんざいに下った処罰についてですね?」
 やましいことなど1つも無いリヒトは、公爵から視線をそらさなかった。

「お前は明日、王太子殿下の婚約者に対する、暴行の罪で公開処刑される」

 王太子フリーゲは側近候補の2人と共に婚約破棄を言い渡したリヒトを、卒業パーティーから追い出した直後…
 ドウルヒファル男爵令息ギフトと、その場で婚約を宣言し成立させるために、準備万端に整えていたのだ。

 それはあまりにもバカバカしくて、オカシナ話だった。

 昨日は王太子フリーゲの婚約者だったリヒトが…
 王太子の恋人ギフトへ暴力を振るった罪で、婚約破棄をされた。

 だが今日は、王太子の婚約者になったギフトに一度も会ってもいないのに、リヒトは王族の婚約者に暴力を振るった罪で、死刑にされるというのだ。

 矛盾だらけの冤罪えんざいである。

 それでも公爵の言葉に、リヒトは血の気が引いた。

「婚約者? 公開処刑? …裁判も無しですか?!」
<私はフリーゲ殿下に、嫌われるどころか… もしかして、憎まれていたのか?!>

 冤罪は、くつがえらないだろうとは、リヒトも覚悟していたが…
 これ程早く、厳し過ぎる罰で刑の執行が行われるのは、予想していなかった。

「全てお前が悪い! "花の令息" の称号にあぐらをかき、王太子を上手く扱うことを、おろそかにして来た報いだ!!」

「ですが父上!! このような冤罪で、私が処刑されるなんて!!」
 自分に落ち度は、1つも無いと、リヒトは反論した。

「リヒト… お前とてフリーゲ殿下は、子供の頃から浅はかな質だと、知っていたはずだ!」
 心を隠し無表情でリヒトを見つめていた、公爵の顔に嘲笑が浮かんだ。

「・・それは・・・っ!!」
 きょかれ、リヒトは呆然とした。

「どれだけ無能で、愚かだろうと、王位継承者は、あの方お1人!」
 今まで口には出さなかったが、そのことは関係者のほとんどが、感じていたことである。
 そのせいで、婚約者であるリヒトへの期待は大きくなり、時と共に責任も重くなっていった。

「国王陛下が、重い病状で床を出られない以上、お前はもっと慎重に、考えるべきだった」
 国王陛下が不在の時が目立ち始め…
 王太子フリーゲは国王の代理だと称し、国政に要らぬ口を出すようになっていた。

「ソレは… 婚姻前にこの身を、殿下に許せと言う意味ですか?!」
 婚約破棄をされリヒトは今度こそ迷わず、王太子の不貞行為を公爵に報告した。

「恥ずべきことだが、この国の為にそれでどうにかなるのならな!」
 冷ややかに公爵はリヒトを睨み付け、言い捨てた。

「父上!」

「殿下とお前の間に、他人が付け入る隙を与えないよう、心を配るべきだったのだ!」

「ですが私は… 私は…っ!」
<ああ… 王太子の側近候補たちが私に放った侮辱の言葉は… ただの侮辱ではなく、王妃の資質が足りないという意味だったのか?!>


『フリーゲ殿下も気の毒に… 婚約者に魅力が足りないから、こうなっても仕方ないさ!』




 清廉せいれんであれ、真摯しんしであれと…
 リヒトは自分に言い聞かせ、厳しい妃教育に耐えて来た。


 だが、それだけでは、不十分だったのだ。



 国に対してはそれで良いが、人である王太子には通用しなかったのだから…








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