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97話 残骸 グランデside

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 大地の裂け目に転移魔法で移動したとたん、グランデたちは濃厚な瘴気に襲われた。

 実体化した魔王を大砲で打ち負かした時に、再び瘴気に戻ったせいだろう。



「うぐっ…?! 胸の中が… 針で刺されるように…っ!!」
 あわててアスカルは口と鼻を手で押さえたが… 呼吸をする限り、一緒に瘴気を吸い続けることになる。

「うっ!! なんて濃い瘴気だ!! こんなに濃い瘴気の中にいては、我々のほうが家畜たちのように魔獣化してしまうぞ?! 全員、今すぐ聖水を飲め!!」
 グランデは腰のベルトに付けた、小さな小物入れから小瓶を2本取り出し、そのうち一本のせんを抜きアスカルに飲ませ… もう一本を自分で飲んだ。

 黒騎士たちもグランデと同じように、聖水を飲みほした。

 神官の浄化魔法がすぐに受けられない時用に、魔獣討伐任務に出る前に、黒騎士は全員装備の1つとして、神殿で作られた聖水を小瓶につめて常備している。
 

「アスカル… 大丈夫か?! オレたちは慣れているから、うっかりしていた、すまない!」

「いいえ、グランデ様! うううっ… 大… 大丈夫です… 転移した時に、思いっきり吸ってしまったので… でも聖水で、のどの痛みは止まりましたし… すぐに良くなるでしょう?」

 身体を丸めて苦痛に耐えるアスカルの背中を、グランデは心配そうにさすった。

「アスカル、もう少しだけ我慢してくれ! 大地の裂け目を確認して来る! その後すぐに本陣へ戻って神官に浄化させよう! 全員、ここで待機しろ!」

「私も行きます!」
 
「いや、エンチュフェはここにいろ! 魔獣の群れも魔王を恐れて、ここにはいないようだし、オレ一人でじゅうぶんだ!」
 
 あたり一面に黒い霧のようにかかる瘴気の中を、グランデは1人で大地の裂け目に向かって走って行く。





 裂け目に向かう途中、瘴気のせいで視界が悪い中、グランデは…

 ガンッ… カランッ… カランッ… と金属製の何かに足を引っかけ、危うく転びそうになり… 何に足を引っ掛けたのかと、目をこらしてよく見てみると、黒騎士団の騎士が装着する、漆黒のよろいがいくつもばらばらになって、散らばっていた。

<これは、どういうことだ?! オレたち以外に、他の隊を王太子殿下が出したのか?!>

 魔石のついた剣まで落ちていて、グランデはその剣には見覚えがあった。

<こいつは確か… エキボカル公爵が公爵家の家宝だと言って、自慢していた剣に似ている?!>

 おかしな物を発見したと、グランデは眉間にしわを寄せた。

<まぁ良い!! それよりも、先に大地の裂け目を確認しなければ!! こんな場所に長居はできないからな!>


 だが、大地の裂け目があったと思われる場所は、魔力砲弾でえぐられて、どこか分からなくなっていた。

<瘴気が噴出ふんしゅつする場所も、魔獣が飛び出して来る気配も無いのなら… 恐らく裂け目は閉じたと考えるのが妥当だとうだろう?! なぜ、裂け目が閉じたのかは分からないが?>

「よし! さっさとこんな危険な場所から、逃げ出そう!」

 グランデがアスカルたちの元へ、引き返そうとした時… 


「……ぅぅぅぅ… クソヤローッ! …… クソッ……」


 どこかで小さなののしり声が聞こえ、グランデはハッ… と息をのむ。


「誰かいるのか?! お―――いっ!!」
 グランデは大声でさけび、すぐに耳を澄ませる。

 すると……

「ぅぅ…… ぉぉ…ぃ…! ぅぅ……ぉ…ぉぃ…! ぁぁクソッ!!」

<あっちか?!>
 あわててグランデは、声のした方へ走ると… そこには3人の黒騎士たちが倒れていた。

「おいっ!! お前たち!」

「団長…?!」

 騎士たちの顔を見て、グランデはさすがに驚く。

 少し前までグランデと戦っていたが… 触手に奪われ、魔王に食われたと思っていた、エンチュフェ隊の部下たちだ。

 生死を確認すると、3人とも瘴気の毒に侵されてはいるが、生きていた。


 魔王に取り込まれ、同化される寸前まで行ったが… 魔力砲弾が命中し、奇跡的に3人は助かったのだ。






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