上 下
92 / 105

92話 次の攻撃

しおりを挟む

 グランデの視線の先の… モウモウと舞い上がる土煙の向こう側で、巨大な影がうごめいた。


「あっ… そんな、魔王が生きている?!」
 小さな声でアスカルはつぶやいた。

 一緒にいる黒騎士たちもアスカルと同じく、呆然と蠢く巨大な影を見ている。


「アスカル―――ッ! 大砲の魔石を交換してくれ!! 他の者は触手の攻撃に備えろ!! お前たちは、目の前の結界が消失したのが見えないのか?! いつまでボンヤリしている気だ―――っ! オレにケツをられたいのか?!! 」
 大剣をさやから抜き、グランデは大声で怒鳴った。


「ああっ… はい!! 申し訳ありません、グランデ様! 今すぐ取りかかります!」
 長弓ながゆみを肩にかけながら、あわててアスカルは大砲にかけ寄り、砲台の下部に取り付けてある、鉄製の箱から予備の魔石12個が入った革袋と、魔石を大砲に装着する、専用の工具を取り出した。

 グランデの言葉通り、ボンヤリと魔王を見ていたエンチュフェは、あわてて部下たちに号令をかける。

「はっ… そうだった! すみません団長! おい、お前たちはさっさと大砲のまわりを囲め―――っ!! 大砲の準備をする、奥方様を守るんだ!! それと新人、お前は今すぐ王太子殿下に、こちらの状況を報告しろ!」

「はい! エンチュフェ隊長!」
 新人騎士は騎士服の上着から金属製の板を出し、インクの代わりに魔力を使って指で伝文を書いて、素早く幻鳥を飛ばした。


「お… おう!! やってやるぜ、しぶとい奴め!!」 

「クソッ… バケモノが―――っ!!」

「今度こそ、あのバケモノを倒すぞ―――っ!!」

 その場にいた者たちの中で、騎士団長のグランデだけが冷静に状況を判断し、迅速じんそくに次の命令を下すことで、呆然としていた黒騎士たちの心にかつを入れ、えそうになっていた闘志とうしを引き戻すことに成功する。




 辺り一面に舞い上がった土煙が落ち着き、魔王の姿をようやくグランデたちは見ることが出来た。


「クソッ! クソッ―――ッ!! オレの狙いは外れてはいなかったが… どうやら狙った場所が、間違っていたようだな!!」
 憎々し気に凶悪な笑みを浮かべて、グランデはののしった。

 葉の無い巨大な大樹のような形をした魔王のど真ん中… 木で言えば幹の一番太い部分に、ポッカリと大きな穴があき、そこより上の部分がドロリ… ドロリ… と形を失い大地にしたたり落ちて、けがれた瘴気を放ちながら消えて行くのが確認できる。


「切り落とした先の方が、元の瘴気へと戻る触手と… 巨大な魔王の本体も… 本質的にはどちらも、同じみたいですね?」
 エンチュフェはグランデの隣に立ち、自分の分析ぶんせきを話した。

「ああ、より多くの魔力を取り込むために、霧のようにただよう瘴気から、実体化しているだけのようだから、どの部分も… 同じ…… いや、待てよ?! 大地の裂け目から動かず、触手だけを動かしているのなら… もしかすると、本体は大地の裂け目の向こう側に、あるのかもしれないな?!」
 眉間にしわを寄せ、グランデは魔王をにらみながら、エンチュフェの分析を聞き、自分の考えをまとめる。


「それは… つまり、魔王の本体に見えるデカイ怪物… あれも触手の一部と言うことですか?」

「違うか?」

「うう~ん… そうですね! 言われてみれば、確かに団長の言う通りに見えます!」

 頼りになる部下のエンチュフェと意見が合い、グランデは大きくうなずく。
 

「よし、ならば次はあの大地の裂け目を狙う!」








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

R18/君が婚約破棄するというので、絶対離さないと分からせるまで愛するのをやめない

ナイトウ
BL
傾向:溺愛執着一途婚約者攻め×おバカざまぁサレ役ポジ王子受け 夜這い、言葉責め、前立腺責め、結腸責め、強引 政略結婚とかまっぴらなのでダミーの浮気相手作って婚約破棄宣言したら秒で却下されるわ夜襲われるわ。

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

【完結】酔った勢いで子供が出来た?!しかも相手は嫌いなアイツ?!

愛早さくら
BL
酔って記憶ぶっ飛ばして朝起きたら一夜の過ちどころか妊娠までしていた。 は?!!?なんで?!!?!って言うか、相手って……恐る恐る隣を見ると嫌っていたはずの相手。 えー……なんで…………冷や汗ダラダラ 焦るリティは、しかしだからと言ってお腹にいる子供をなかったことには出来なかった。 みたいなところから始まる、嫌い合ってたはずなのに本当は……?! という感じの割とよくあるBL話を、自分なりに書いてみたいと思います。 ・いつも通りの世界のお話ではありますが、今度は一応血縁ではありません。 (だけど舞台はナウラティス。) ・相変わらず貴族とかそういう。(でも流石に王族ではない。) ・男女関係なく子供が産める魔法とかある異世界が舞台。 ・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。 ・頭に☆があるお話は残酷な描写、とまではいかずとも、たとえ多少であっても流血表現などがあります。 ・言い訳というか解説というかは近況ボードの「突発短編2」のコメント欄からどうぞ。

辺境に捨てられた花の公爵令息

金剛@キット
BL
子供の頃女神の神託で、王の妃となる"花の令息"の称号を与えられたプファオ公爵家長男リヒトΩは、覚えの無い罪で王太子に婚約破棄を言い渡され、追い打ちをかけるようにリヒトの公開処刑が決まった。 魔獣の襲撃から北方を守護する、シュナイエン辺境伯シルトαは、国王陛下と会う為に訪れた王宮で、偶然リヒトの処刑の話を聞き、恩人プファオ公爵の為にリヒトを救い出し北方へと連れ帰り自分の妻にする。夫シルトに溺愛され、生真面目なリヒトは戸惑いながらも深い愛情で応えた。 王太子と王都の貴族たちは誰も知らなかった。"花の令息"リヒトが幼い頃から女神に祈りを捧げ、王都を魔獣の脅威から守って来たコトを―――――― (・´з`・)魔法の国の、お話に都合の良い、ゆるゆるオメガバースです。 ※R18要素入る時は、タイトルに付けます!  😘イチャエロ濃厚です。苦手な方はご注意下さい!!

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

初めて僕を抱いたのは、寂しい目をした騎士だった

金剛@キット
BL
貧乏貴族の令息オメガのアユダルは、父親の借金の代わりに娼館へ売られてしまう。 だが、地味で内気なアユダルを買う客はいなかった。 そんな時、ケンカで顔にケガをした、男娼にかけた治癒魔法が目をひき、アユダルを買う客があらわれる。 魔獣の襲撃で家族と婚約者を失い、隠者のように暮らす裕福な騎士、アルファのレウニールだった。 レウニールはアユダルが抱かれるのは初めてと知り、優しい気づかいを見せた。 アユダルは親切で優しいレウニールに恋をし、ずっと側にいたくて、自分を愛人にして欲しいと願うようになる。 レウニールもアユダルの誠実さや可愛さに心ひかれてゆくが、受け入れられない事情があった。 😏お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。 😘エロ濃厚です! 苦手な方はご注意下さい!

【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。 俺が王子の婚約者? 隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。 てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。 婚約は解消の方向で。 あっ、好みの奴みぃっけた。 えっ?俺とは犬猿の仲? そんなもんは過去の話だろ? 俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた? あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。 BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。 そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。 同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。

オークなんかにメス墜ちさせられるわけがない!

空倉改称
BL
 異世界転生した少年、茂宮ミノル。彼は目覚めてみると、オークの腕の中にいた。そして群れのリーダーだったオークに、無理やりながらに性行為へと発展する。  しかしやはりと言うべきか、ミノルがオークに敵うはずがなく。ミノルはメス墜ちしてしまった。そしてオークの中でも名器という噂が広まり、なんやかんやでミノルは彼らの中でも立場が上になっていく。  そしてある日、リーダーのオークがミノルに結婚を申し入れた。しかしそれをキッカケに、オークの中でミノルの奪い合いが始まってしまい……。 (のんびりペースで更新してます、すみません(汗))

処理中です...