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89話 断末魔
しおりを挟むエキボカル公爵ら3人と、13人の黒騎士たちが転移魔法で、魔王が出現した大地の裂け目の前に飛び出した。
転移したらすぐに戦えるよう、騎士たちは鞘から剣を抜き準備をしていたが… 自分たちの前にあらわれた、無数の枝のような触覚を持つ、葉の無い大樹に似たどす黒い存在に虚をつかれた。
「こ… これが、“魔王”… なのか?」
小さな城ぐらいある強大な存在を見あげ、自分の目が信じられず、思わずエキボカル公爵はつぶやいた。
大地の裂け目から植物のように生えて見える、蠢くどす黒い存在の根元と言える部分には、よく観察すると無数の魔獣の顔が浮き出て… グガァァァァ―――ッ…!!!
断末魔のさけび声をあげると、ドロドロと融けてどす黒い存在と同化し、また次の魔獣の顔が浮かび上がり断末魔のさけび声をあげる。
蠢くどす黒い存在… “魔王”は、触手で魔獣たちを捕獲すると取り込み、肉体を同化し魔力を吸収しているのだ。
本来は、“魔王” の仲間であるはずの魔獣たちは、大地の裂け目から飛び出したとたん… “魔王”の触手に捕まらないよう一目散に逃げ出していた。
だが、結界の外に出ることが出来ない魔獣たちは、触手に追い回され逃げ惑っている。
理解の範疇を越えていた目の前の光景に、13人の黒騎士とエキボカル公爵ら3人は、“魔王” への対処が遅れた。
まともに対処出来たとしても… “魔王” の目の前にいては、巨大で凶暴な触覚を、防ぐのは難しいだろう。
エキボカル公爵たちが戸惑っている間に…
魔獣たちよりも上質な魔力を持つ獲物を見つけた“魔王” は、新たな触手をいっきに伸ばし、一度で3人の騎士とデポシシオン子爵を捕まえると、そのまま触覚は伸ばした時と同じ速度で縮み、本体へと戻り騎士たちを取り込んだ。
本体の根元の部分に、デポシシオン子爵と3人の騎士の顔が浮き出て…
「助けてくれぇ―――っ… ああああぁ…」
「がああぁぁ―――っ… 嫌だぁぁぁ… ああ…」
「公爵… 助けてぇ… ぐうううぅぅ…」
「あひぃぃ―――っ… 助けぇ…て…」
4人の顔はドロリと融けてどす黒い存在に同化された。
仲間が目の前で同化されるのを見て、何人かの騎士が悲鳴を上げて逃げ出すが…
騎士の足よりも速い触手が新たに伸びて、あっという間に捕まり取り込まれてしまう。
「臆病者め―――っ!!」
セルビシオ伯爵と側近の部下は、触手に向かって魔法攻撃を試みるが… 一度は触覚を切り落とすことに成功するが、またすぐに次の触覚から攻撃を受け、捕まってしまう。
「クソッ! お逃げ下さい公爵閣下―――っ…!!!」
近くで騎士の誰かがさけんだが、エキボカル公爵は動かなかった。
「グランデの報告は… 手柄欲しさの、誇張した嘘ではなかったのか?! これは… これは… 何てことだ…?! 無能なアニマシオンではなく、私が間違っていたというのか? そんなバカな! バカな! バカな!」
ぼうぜんと立ち尽くすエキボカル公爵に、どす黒い触手が襲いかかる。
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