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83話 魔王の触手

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 バチッ… バチッ…! と白い火花を散らし結界を浸食しんしょくし、こちら側に突き抜けた“魔王”の触手らしきものを、エンチュフェが剣を抜いて切り払った。

「クソッ! やはり、楽をさせてはもらえないようですね!!」

 結界壁はすぐに元通りに戻ったが… 結界だけでは魔王の攻撃を防ぎきることができないと、この時グランデたちは知った。

 黒い炎だった時とは違い、エンチュフェが切り伏せた魔王の触覚は、ドサッ… と音を立てて落下すると、ドロドロと形を失い大地に黒い染みを残し、けがれた瘴気を放ちながら消え去った。


「団長、今のは…?!」

「ああ、わかっている!! 大地の裂け目からふき出した、濃縮された瘴気… 黒い炎が、魔力を吸って魔獣のように実体化した!!」
 悪魔のような恐ろしい笑みを浮かべて、グランデは結界の向こう側をにらみつけた。

「そのようですね… やれやれ…!」
 嫌そうな顔をするエンチュフェも、結界の向こう側の魔王の影をにらむ。

「そう悲観するなエンチュフェ! 濃い瘴気だけなら、威張いばり腐った高位神官にしか浄化出来ないが… 幸か不幸か、“魔王”となった今なら、オレたちの剣と魔法で討伐が可能になったのだから! …いつものオレたちの戦い方で、対応できるだろう?!」

 隣に立つアスカルをチラリと見下ろし、戦いに参加させる気など無かったグランデは、一瞬だけ不安そうな顔をするが…
 サッ… と視線を外し、新人騎士に怒鳴るように命令した。 


「本陣の王太子殿下に、第2、第3、の結界を今のうちに張るよう要請しろ! それとオレたちは計画を変更し、このまま大砲を置いた場所へ向かうと!」
 
 目の前で破られそうになっている結界壁が、第1結界で… 全部で3重の結界を張る準備がしてあり… 王太子がいる作戦本部の本陣は、その外側に置かれている。


「は… はい!」
 新人騎士は大急ぎで、騎士服の上着から金属製の板を出し、魔力で伝文を書くと、本陣で魔王討伐の総指揮をとる王太子に向けて、漆黒に真紅の翼を持つ幻鳥を飛ばした。


 魔王が出現するポイントが、黒い炎が最初にふき出した大地の裂け目だと予想し… グランデは前もって魔王出現ポイントを狙いやすい場所に、大型魔道武器をレガロ伯爵邸の武器庫から、転移魔法で移動して設置しておいた。
 
 魔獣たちは生物の血肉を喰らうことでしか、魔力を奪えないため、魔石のように魔力を大量に含有した鉱物を放置しても、奪われる心配が無い。

 その性質を上手く利用したのだ。

 
「オレたちが大砲を置いた場所へ、転移したらすぐに結界石を発動し結界を張る! だが、油断するな! さっきのように、魔王の攻撃は結界壁を破るだけの力がある! まぁ幸いにも、お前たちは黒騎士の中でも精鋭せいえいを選んでいるから、なんとかやりげるだろう!!」

 7人の黒騎士たちに作戦を簡単に説明し、ついでにグランデは騎士たちの士気しきを高めふるい立たせる。

「お任せ下さい団長!! 私もガッツリ手柄を立てて、子供に武勇伝を語ってやりたいですからね!」
 妻子持ちの騎士が、自分を鼓舞こぶするようにさけんだ。 

 グランデは騎士たちに、ニヤリと笑って力強くうなずいた。


「…アスカル?」

「はい、グランデ様! 結界は僕が張ります… 結界石の使いかたを一番、知っているのは僕ですからね!」
 美しい顔が強張り青ざめているが、アスカルはニコッ… とグランデに笑い、自分の薄い胸をぽんっ…ぽんっ… とたたいて見せた。

 4代目伯爵の手記で、結界石を使い領地を守ったという記録を見つけて以来、大賢者が未来視さきみの魔法で予言して、王太子が王国じゅうに布告を出してから、魔王復活までの、1年と数ヶ月…
 その間、アスカルはこの時のために、結界石について魔石の専門家とともに調査研究し、レガロ伯爵家の魔石鉱山から採取した魔石を、一個、一個、厳選して結界石へと加工した。

  
「頼むぞ!」

「はい、グランデ様!」



 7人の黒騎士とアスカルを連れて、グランデは転移魔法を使い、結界壁の向こう側へと移動する。






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