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82話 共食い
しおりを挟むアスカルの魔力の消耗が気になり… グランデは転移魔法の魔道具を、アスカルの手から奪い取った。
「おい、全員集まれ! 移動するぞ―――っ!」
結界壁の近くで座り込んだ黒騎士たちに、グランデは怒鳴って声をかける。
「おおっ… 助かった!」
「フゥ―――ッ… やれやれ…」
対魔獣用の重装備を身に付けたまま徒歩で移動するのは、普段から身体を鍛えている騎士たちであっても、ひどく体力を消耗するため… アスカルが迎えに来て、黒騎士たちはホッ… とした様子を見せた。
ちなみに騎士団長グランデが持つ、転移魔法の魔道具は… 高位神官たちを避難させるために、先に移動したバハルが使用している。
だらっ… と腰を下ろして休憩していた黒騎士たちは、グランデの号令でシャキッ… と立ち上がり、ガチッ… ガチッ… と鎧と武器がこすれる金属音を鳴らし集まった。
「あっ?! 団長、あれを見て下さい! なんか結界内の様子がおかしい!!」
転移魔法を発動させようと、グランデが魔道具に魔力を流そうとした時、腹心の部下エンチュフェがさけんだ。
「何…?!」
部下にうながされ、透明な結界壁の向こう側を見たグランデは、ハッ… と息をのむ。
結界の中心地、大地の裂け目からふき出し、地面をはうように広がった… グランデたちの魔力を奪おうと、追いかけて来た黒い炎が、魔獣を次々と襲い吸収し始めた。
「グランデ様… あれはいったい…?」
無意識で、頼りになる夫に助けを求めるように、アスカルはグランデの腕に触れてたずねる。
「結界に阻まれてオレたちの魔力を奪えなかったから… 恐らく足りない魔力を、裂け目から一緒に出て来た魔獣で、補充しようとしているんだ!」
「魔獣から補充?! それって… 共食いでは…?」
「そうだ! 魔獣は普通、自分たちよりも肉体的に脆弱な人間や動物を襲い、魔力を奪おうと血肉を食らうが… 近くに適当な生き物がいない場合は、魔獣の中の弱い個体を襲うことがある」
「ううっ… 何て気持ち悪い!!」
本能で嫌悪を感じ口を押さえるアスカルを、守るように細い腰を引き寄せ、グランデは厳しい顔で黒い炎をにらみつける。
「黒い炎の色が濃くなっている! 魔獣から奪った魔力のせいだ…」
嫌そうにエンチュフェが、つぶやいた。
エンチュフェの言う通り、半分透けていた黒い炎の色が濃くなっている。
あたり一面に広がっていた炎が、徐々に人の影のような形へと変化してゆく。
「団長… 200年前の記録に残されていた、あれが“魔王” ではないですか?!」
「人間に似た、かたちをしているから… 魔人… “魔王”と連想し、そう記したのだろう…」
これまで見たことのない異様な光景に、呆然と立ち尽くしていた黒騎士たちは、不意をつかれて突然攻撃を受けた。
“魔王”から、鞭のような黒い触手らしきものが飛び出し、グランデたちを狙って結界壁にぶち当たる。
「クソッ! 全員、下がれ―――っ!!」
バチッ… バチッ…! と白い火花を散らし、“魔王”の触手らしきものは少しずつ結界を浸食し、こちら側に突き抜けた。
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