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62話 娼館の治療室
しおりを挟むグランデと2人で娼館の奥へ進むと…
裏口に近い窓の無い物置部屋を改築して作られた治療室があった。
治療師プロプエスタは簡易ベッドの上で仰向けに寝ころがる、商売道具の顔を無残に腫らしたオメガの男娼に、治癒魔法をかけていた。
「・・・・・・」
<治療師様は女性のオメガなんだ… 年齢は僕のお父さんぐらいかな?>
窓の無い部屋は換気のためか、扉は開けっぱなしにされ… 患者と治療師、見習い治療師の3,4人がやっと入れるほどの小さな部屋で、アスカルはグランデと一緒に、治療室の外から室内の様子をうかがった。
「ずいぶんひどく殴られたね… 性器の裂傷も大きいから、治癒魔法をかけても患部が落ち着くまで一晩、静養が必要だ… 今夜は客を取るのは止めて休みなよ? 無茶はしないように」
「でも治療師様…」
「今夜は安静にしないと、さっきのように性器が痛んで、一週間は客が取れなくなるよ? どっちが良いかよく考えてみなよ?!」
「わ… わかった!」
「痛み止めのお茶をあげるから、寝る前に飲みな」
「ありがとう」
男娼はポケットから銀貨を一枚出して、見習い治療師に渡し、代わりに紙に包んだ痛み止めのお茶を受け取り、裏口から去っていった。
依頼されれば治療師プロプエスタは、他の娼館の娼婦や男娼、一般の客にも安い治療費で分け隔てなく、治癒魔法をかける良心的な治療師だった。
「おや! やっと来たねグランデ、あんたの部下から団長が大ケガしたのに、治療しないで真っ直ぐ家に帰ったと聞いたから、心配していたんだよ、あんた結婚したんだって?」
プロプエスタは治療室の奥から扉の外側に立つグランデの顔を見て、ニカッ… と笑った。
「ああ、まぁな…」
「それにしても… あの、暴れん坊グランデが結婚とはね! 滅多に見ない美人の男オメガを嫁にもらったらしいね? あんたが伯爵様になったのも驚きだけど、貴族嫌いのあんたが貴族の令息と結婚するなんて… あんたも大人になったね!!」
「プロプエスタ…」
「ああ、これは大変だ!? ケガをするたびに、奥さんにバレないよう、娼館に通うなんて!」
「うう~んん…」
渋い顔でグランデは唸る。
「はははははっ…!」
グランデの顔を見て、治療師プロプエスタはケラケラと笑った。
「…ケガするたびに、通う?! グランデ様、それはどういう意味ですか?! やっぱり騎士団付きの治療師はグランデ様の治療を放棄しているのですか?!」
治療師との会話を、グランデの背後から黙って聞いていたアスカルは、我慢出来ずに口をはさんだ。
「うっ…! それはだな、アスカル…」
気まずそうにアスカルから目をそらしたグランデは、治療用のベッドに腰を下ろした。
「おや? 見たことのない顔だね… どこの店の男娼だい? それにしても綺麗なオメガだ…! グランデあんた、どこでこんな美人の男娼を見つけて来たんだ? 新婚のくせに、あんたも悪いアルファだね?! まぁ貴族のオメガが妻では、無理も無いけど…」
治療室の奥に座っていたプロプエスタには、大柄のグランデの背中に隠れて、細身のアスカルが見えなかったらしい。
アスカルの存在に気付いた、プロプエスタは驚いた顔をして、ついでにいくつも誤解を連発した。
「アスカルはオレの妻だ!」
むすっ… としたグランデは、ベッド脇に立つアスカルの手をつかむ。
「何だって?!」
プロプエスタはグランデの顔をまじまじと見る。
「それよりも、グランデ様! 騎士団付きの治療師が、グランデ様の治療をしない理由を教えてください! 重傷者を優先するためだとか… 今度はその手の誤魔化しはしないで下さいね?!」
アスカルは本気で激怒していた。
その証拠にアスカルの手をつかんだグランデの手が…
怒りと一緒ににじみ出た、アスカルの魔力で急激に冷たくなった。
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