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54話 娼婦の子2 グランデside 

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 ジロリと怖い顔で肖像画のリコルをにらみながら… グランデはそのことについて、アスカルにぽつぽつと語った。


「オレの親父と長男リコルの兄弟仲は、最悪だったらしい… 学園で首位を独占して卒業し、黒騎士団への入団が決まっていた弟と、卒業するのがやっとだった落ちこぼれの兄では… まぁそれも、仕方の無いことかもしれないが」

「グランデ様のお父様に… 弟に嫉妬をしていたのですか…? 確かに先代ならそういう恥知らずなことは、平気でするでしょうね」
 顔に嫌悪感を浮かべたアスカルはうなずいた。

「それだけ仲が悪いのに、2人だけで何時間もかけて、遠乗りに出かけるなんておかしいだろう? そこで仲良く飲酒するなんて、もっとおかしい!」
 
 表向きには、グランデの父は酒を飲んで酔っ払い、馬ごと崖から落ちて死亡したことになっている。

「確かにおかしいですね」

「祖父が倒れた時も、リコルと執事の2人だけで看病し、他の使用人を寝室に入ることを禁止した、それも祖父が死んでから医者を呼んだそうだ… 恐らく毒を使ったのだろうな」

 グランデの祖父は、息子の葬儀中に倒れ、そのまま病で亡くなったことになっている。

「執事を使って、毒殺ですか?!」

「ああ! 相続争いの発端ほったんとなった、リコルが失踪しっそうして、当主不在の伯爵家から、金を横領して監獄に入れられた奴だ!」

「お金のためなら、悪事に手を染めても平気な人ですね…? 先代に買収されて、その執事は共謀きょうぼうしてグランデ様のお祖父様を殺害した」

「たぶんそうだ… 親父が描かれたこの肖像画を、美術品倉庫から捜し出してオレに見せてくれた、メイド長もずっと疑っていたらしい」

「なんて汚い人たちなんだろう?!」
 グランデがにらみつける肖像画のリコルを、アスカルも一緒ににらんだ。



「子どもの時、オレが親父について母親に聞くと… 嫌な顔をして絶対に口を開こうとはしなかった… だからオレは、聞くのを止めた」
<世間知らずの令嬢だった母は、どこかの貴族にもてあそばれたのだろうと… あの頃のオレは、そう思い込んでいた>

「だが、今ならわかる! 母はオレを守りたくて、口を閉じていたんだ」

「先代リコルから… ですね?」

「ああ… ゲス野郎は母が娼館に売られたと知り、常連客となって母を抱きに来ていたそうだ!」
<ゲス野郎は“弟の婚約者に慈悲を与える” などとふざけたことを言いながらだ!! そうやって母を侮辱し、おそらく優越感に浸っていたのだろう!>

「だから母は、ビクビクと怯えながら伯爵家の血を引くオレの存在をひたすら隠し、ゲス野郎の気をそらすために媚びを売るしかなかった」

「無事、グランデ様を守り抜いた… 本当に立派なお母さまですね!」

 アスカルは感嘆の声をあげるが、グランデは複雑な気分になる。

 自分の母親が先代リコルに、そうやって侮辱され続けたことを、グランデが最初に知ったのは、相続争いに加われと命令された後、王太子アニマシオンに調査報告を聞いた時だった。

 グランデの高い能力と特徴的な深紅の瞳は、貴族や王族たちの間でレガロ伯爵の血筋ではないかと、かなり前から噂されていた。

 先代リコルが失踪し、相続争いが王都を騒がせ始めた時に、王太子アニマシオンがグランデに爵位を継がせようと、一番最初にしたのが… グランデの母親に、聞き取り調査をすることだった。

 それまで息子本人にさえ話さず、母がかたくなに口を閉じていた出生の秘密だが… 天敵のリコルが失踪し、グランデの友人でもある王太子自身が、直接母に問いただしたため、ここぞとばかりに母はすべてを語ったのだ。



「・・・っう!」
 グランデの腕の中でアスカルがうめき… 細い身体を抱きしめる腕にいつの間にか余分な力が入り、アスカルを締め付けていたのだ気づく。

「悪い! 痛かったか?!」

「いいえ、グランデ様… 少し驚いただけですから」
 ニコリと笑い、アスカルはグランデの顎にキスをして頬をなでた。

「お前ならきっとオレの母と、気が合うだろう」
<優しいオメガだ… 母の話をしても、同情は見せたが少しも嫌な顔をしなかった… 時々頑固になって扱いづらくなるが、オレにはそれぐらいの方が丁度良いし… やっぱりオレの妻はアスカル以外は、有り得ないな!>


「はい、お母様にお会いするのが楽しみです」




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