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48話 錯乱 グランデside

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 珍しくあわてた様子の執事が、執務室にグランデを呼びに来た。

「旦那様! ただいま… 当邸とうやしきに招かれざる、お客様が訪問されまして… その方が…」

「ああ、面倒だ!! ハッキリと言え!!」
 仕事を中断させられたグランデは、イライラと眉間にしわを寄せ、執事を悪魔のような形相でにらみつけた。

「旦那さまの指示通り、先代リコル様の非嫡出子、ボラーチョ様が来るたびに追い返していたのですが… 今夜は酒に酔っているご様子で、無理矢理押し入られまして… それで旦那様の婚約者様が、応対されて…」

「婚約者?! アスカルがか?!」

「はい、旦那様!!」

「それを先に言え―っ!!」
 グランデは執事を押しのけ、怒鳴りながら執務室を飛び出した。 



 ガツガツと荒々しい足音を立てて、グランデが玄関ホールまで行くと、先代リコルの息子ボラーチョが、アスカルの胸をやらしく撫でる姿が目に入る。

「この…っ」
 カッ…! と腹を立て、大声で怒鳴ろうとした瞬間、急激にアスカルから魔力が高まる気配を感知し、グランデは反射的にかけだした。

「アスカル―――ッ!!!」
<まずい!! 魔力の暴走だ!!>

 アスカルを中心に温度が下がり、ビシビシと不穏な音を立てて絨毯が凍りついて行く。

「うわぁぁぁぁぁ―――っ?!!!」
 アスカルの胸をなで回していた、自分の手が凍り出し、ボラーチョは事態の深刻さにようやく気づき、さけび声をあげた。



 グランデは背後からアスカルを抱き寄せ、ボラーチョから引き離し距離を取ると、胸の中に閉じ込めるようにギュッ… と抱きしめた。

「落ち着けアスカル! 落ち着くんだ…」 
 アスカルから急激に流れ出した魔力のかたまりが不意に霧散むさんし、グランデはホッ… と胸をなで下ろす。


「1人にして悪かった、アスカル許してくれ… 怖かっただろう? もう大丈夫だ! オレが側にいる、オレがお前を守るから… 心を静めるんだ、あんな風に魔力を使ったら身体が壊れてしまうぞ? アスカル?」

 腕の中のアスカルはぶるぶると震えていて、ひどく怯えているのだと、わかり… グランデはなるべく穏やかに聞こえるように、アスカルの耳元でゆっくりと低い声で言って聞かせた。

「あいつ… あいつ… 先代が… 僕が殺したのに、生き返って、僕の胸を前みたいに触って…」
 小さな弱々しい声で、アスカルは自分の恐怖をグランデに語った。 

「先代? 先代当主リコルのことか?」
<今、アスカルは殺したと言ったのか?! 前みたいに?! 胸を触っただと?!>

「あいつは僕の父親のくせに、僕が息子だと知っていて… 僕の部屋に来て、僕を抱こうとするから… 僕は… 僕は… 殺した…!」

「そうか… それは怖かったなアスカル、もう大丈夫だオレが守るから」
<先代リコルが4年前に失踪した真相は、これだったのか! アスカルを抱こうとしただって? 4年前なら、アスカルは14歳の子供じゃないか!! ゲス野郎が!! クソッ!! オレが先に、奴を殺してやれば良かった!!>

「アスカル… 目の前にいるあいつは先代リコルではなくて、息子のボラーチョだ、顔がそっくりで中身がゲス野郎なのは変わらないが、先代が生き返ったわけではないから安心しろ」

<ああ、それでアスカルは激しく動揺して、錯乱さくらんしてしまったのか… 可哀そうに!>
 絨毯じゅうたんの上に転がり凍った手が痛いと、顔をグシャグシャにして泣く酔っ払いボラーチョを、このまま始末してしまおうかと、グランでは本気で考えた。


「息子? あいつも先代の息子?」

「そうだ、一番年長の先代リコルの息子で、オレと最後までレガロ伯爵家の相続争いをした奴だ」

「あいつは僕の兄さん? 嫌だ! 嫌…っ! 兄さんはグランデ様だけで良い… お兄さんはグランデ様だけで… ううっ… ううう…ううっ… う…」

「んん? 何だって? …オレが兄さん?!」


 ことりっ… と、力尽きたアスカルは、気を失った。





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