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47話 無礼な客

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 田舎の本邸に比べると、王都のレガロ伯爵邸は少し派手だと感じるほど、家具や装飾、壁に飾られた絵画や彫刻など… とても豪華だが、全体的にこじんまりとしていた。

「ふう~ん…?」
<先代当主が本邸にあった高価な美術品は、すべて王都のタウンハウスに移したと、お父さんが言っていたのは本当なんだな…?>

 キョロキョロと邸内を見回し、本邸のほうが質素だけど落ち着いた雰囲気があって素敵だと… アスカルの中で変な対抗心が芽生えた。


「それにしても… 人の気配が無いなぁ? 本邸と違って、こっちはもっとたくさんの使用人を、雇っているとお父さんに聞いたけれど…?」

 それもそのはずで、グランデが伯爵家を相続した時に、4年も放置されていたため、使用人の質が落ち、ほとんど解雇してしまったからだ。


 中央階段を使い、アスカルが一階の玄関ホールまで下りると…
 静まり返った邸内のどこかから、人が言い争う声が聞こえてきた。 


「伯爵様はお会いする気は無いそうです、どうかお引き取り下さい」

「お前では、話にならない!! 今すぐ奴を出せ!!」

「どうかお引き取りを!」

「うるさい!! そこを退け!!
 重々しい玄関の扉をこじ開け、顔を真っ赤にした男が大声で怒鳴り、使用人を突き飛ばして、無理矢理押し入って来るのが見えた。

「・・・っ?!」
 あまりの暴挙に、アスカルは玄関ホールの真ん中で棒立ちになり、初めは押し入って来た男を、呆気あっけに取られて見ていたが…
 すぐにレガロ伯爵家の執事としてのプライドに火がつき、アスカルは男を止めようと進路を塞いだ。

「お帰り下さい!! 使用人に暴力を振るい無理矢理侵入するような、礼儀を知らない方に、当家の主人はお会いすることはありません!! 先に手紙で面談の約束を申し込んでから、もう一度お越しください!!」
 毅然きぜんとした態度でアスカルは、無礼な男に言い放つ。

「伯爵家の正当な後継者の私が、娼婦の息子に手紙を出すだと? バカを言うな!!」

「このまま当家に居座る気でしたら、今すぐ青騎士団に通報しますよ? それでもよろしいですか?!」
<娼婦の息子?! 何を言っているんだ、この男は?!>


「何だとこいつ!! 使用人のくせに生意気な奴だ!! オレが当主になったら、一番最初にお前をクビにしてやる!!」
 男はアスカルの胸倉をつかみ、酒臭い息をはきながら怒鳴った。

「お止め下さい! 青騎士団が… っ…?!」
 間近で男の顔を見て、アスカルはハッ… と息をのんだ。

<先代伯爵リコル…?!>


「…何だ、お前オメガか?! 使用人の服を着ているからわからなかったが… 娼婦の息子はオメガを、使用人にしているのか?!」

「・・・・っ」
 不意に4年前の悪夢が蘇り、アスカルはビクッ… と震え、顔が強張る。


 雇い主のレガロ伯爵リコルが酒臭い息をはきながら、欲望で瞳をギラつかせ14歳のアスカルの前に立っていた。

晩餐ばんさんの時からお前はオメガのフェロモンをまきき散らして、私を誘惑していただろう? お前のみだらな視線にも気づいていたぞ』



「ああ、そうか! お前は毎晩あいつの相手をする為に雇われているのか!! それならオレが当主になっても、お前をクビにするのは止めてやるよ! よく見れば綺麗なオメガだからな!!」

 黙り込んだアスカルが抵抗しないと分かると、酒に酔った男は胸倉を離し、上着をめくりベストの上から、やらしく胸を撫でた。

「何だお前、怯えているのか? 娼婦の息子とは違って、私は優しい男だぞ? それにしても珍しい藤色の瞳だな?!」


「・・・・っ!」
<確かにこの男だ! なぜ生きているんだ?! 僕が殺したのに?! この男は亡霊なのか?!>


『クッ… クッ… クッ… お前の珍しい藤色の瞳は、あいつにそっくりだな?! お前の母親が、今どこにいるか知っているか? クッ… クッ… クッ… オレの上に乗って腰を振っていた奴のことだ!』



 ぼんやりと忘れかけていた、4年前に1度会ったきりの実父の顔や記憶が…
 男の顔を見たら、次々と鮮明に思い出し、アスカルの身体は恐怖でブルブルと震えだした。






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