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43話 雑音
しおりを挟むレガロ伯爵領で魔獣の駆除を失敗し、自分の抑制リングを壊して本格的に発情してしまったアスカルは、人の視線をほとんど感じない、人口が少ない田舎でも恥ずかしくて辛かったのに…
今回は運悪く、人の多い王都の真ん中で発情してしまい、グランデに抱き上げられて移動する間、たくさんの視線を感じ、アスカルは広い胸で顔を隠し身体を縮めて、ずっと瞳を閉じていた。
最初は恥ずかしくて、そうしていたが… 段々と恥ずかしさよりも、悔しくて腹が立って、自分が情けなくて辛くなったからだ。
「・・・・っ」
<自分に腹が立って仕方が無いよ!! 悔しくて、悔しくて、たまらない!!>
騎士団本部の玄関前で馬車を待つ間、瞳を閉じていると耳から入る雑音が気になり…
黒騎士の誰かの信じられないような陰口が聞こえ、アスカルはその場から、消えて無くなりたいと思った。
「おい見ろよ! 野獣がオメガを抱えているぞ?! どこで誘拐してきたんだ?! ずいぶん綺麗なオメガだな… あの男の相手をするのは娼館の奴らしかいないと思ったが… あのオメガもきっと男娼さ!」
「エキボカル公爵様も、やはりそう思われますか? 平民上がりの野蛮人が、騎士団本部に男娼を連れ込んで、黒騎士団の品位をまた落とすようなまねをして、忌々しいやつめ」
「下品な愛人から生まれた奴は、騎士団長になっても、やることは下品なままだな! これだから躾が悪い平民は!! 先代の騎士団長が、なぜエキボカル公爵様を指名しなかったのか、気が知れませんね!」
「レガロ伯爵家の名前も地に落ちたな! 野獣が当主では、伯爵家もこれで終わりさ!」
「うっ… グランデ様下ろしてください… 自分で歩きます! んっうぅ…」
<僕のせいでグランデ様が悪く言われている!! 僕がこんなに人目がある場所で、発情なんかするから…!! 僕のバカ野郎―――っ!!>
耐えられなくなり、アスカルはグランデの耳元で懇願するが…
「悪いなアスカル! 恥ずかしいだろうが、今は我慢してくれ… もうすぐ馬車も用意できるから」
「グランデ様… 違う…! グランデ様の評判が… 僕のせいで下品だと… 言われてしまうから…」
<今、グランデ様の悪口を言った奴らは、僕が地獄に落ちる時に、ぜったい足を引っ張って、道づれにしてやるからな―――っ!!! 特にエキボカル公爵とその手下たちは… 毎晩、“頭が禿げろ!” と呪ってやる!!>
ハァッハァッ… と発情の熱をはきながら、アスカルはギュッとグランデの首にしがみつき、心で誓う。
「剣や魔法の技よりも、媚びを売ったり陰口をたたく方が得意な、無能なやつらの言葉など耳に入れるなアスカル! オレの妻になるお前には可哀そうだが… 平民上がりのオレの評判なんて、元から無いようなものさ! だから気にするな!」
「でも、グランデ様…!」
「無能で弱いやつほど、陰で大口をたたくものなんだ! だから、オレが選んだ頼りになる、有能な部下たちは… さっきオレたちのことは、何も言わなかっただろう? まぁ言う時は堂々と、オレに嫌味をいうがな!」
大はしゃぎで魔道武器を、選んでいた騎士たちのことである。
「確かに… そうですけど…?」
「さっきも言っただろう? 今はオレに可愛がられることだけに、集中しろと!」
「グランデ様ぁ… だい好きです!」
アスカルは、グスッ… と鼻をすする。
「その調子だ、アスカル!」
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