上 下
40 / 105

40話 漆黒の人だかり

しおりを挟む
 涙をこぼしながら… 今度こそ、伝えなければいけないと、口を開こうとするアスカルの唇を、グランデがキスでふさいだ。 

「んっ…?!」
<グランデ様…?!>

 チュクッ… と小さな唇の音を残して、グランデは離れると… アスカルをギュッ… と抱きしめて、耳元でささやいた。

「そんなに悲しそうな顔をして… 今は何も言うな! 何も考えるな! つがいになった時のお前のように、幸せそうな顔でオレに可愛がられることだけに集中しろ!」

「でも… グランデ様! 僕はあなたに話さなければ… いけないことが…」

「ダメだ!」
 グランデは再び、アスカルの唇をキスで塞いだ。

「う… んっ…!」
<でも今、話さなければ、取り返しのつかないことになってしまう! このままグランデ様が、僕との結婚を進めてしまったら?!>
  
 グランデの舌で口内をくすぐられ… アスカルは反射的に、つがいになってから繰り返し教えられた、熱烈な恋人同士のキスで応えた。 

 チュクッ… チュチュッ… とアスカルがグランデの舌と唇に、夢中になっていると…


「団長、この魔道武器がいっぱい詰まった木箱は、どこに運びましょうかね? 武器庫ですか? でもこれ… ものすごい逸品いっぴんばかりだから、団長の執務室の方が良いですかね?」

 レガロ伯爵邸から運んで来た、木箱のふたを勝手に開け、中に詰め込んだ魔道武器を、よだれが垂れそうな顔で、一品ずつ手に取り見ていた黒騎士たちが、空気を読まないのんきな態度で声をかけて来た。


「…っ?!!!」
<誰?! わわわっ?!> 
 うっとりとキスに溺れていたアスカルは、知らない誰かに声を掛けられ、ギョッ…!! と目を開き、グランデの腕の中で飛び跳ねた。

<忘れてた!! ここ… 黒騎士団の本部だった!! 人がたくさんいたのに… 僕は… 僕は… 人前で、ふ… ふしだらなことを、してしまった!!> 

 あわあわとパニックになるアスカルの唇を、ヂュッ…!! と強く吸うと、グランデはパッ… と離れて、背後に立つ部下たちに大声で怒鳴る。


「バハル―――ッ! コスタとエンチュフェと、お前の隊の奴らを呼んで来て、相性の良さそうな武器を選べ! 貸してやるから!」

「ええ?! こんなお宝を、貸してくれるんですか?!」

「金の無い奴にだけだぞ! その代わり騎士団を辞める時には、絶対に返せよ? それは一応、レガロ伯爵家が先祖代々守って来た武器だからな―――っ!!」
 
「うおおおおおお~!! レガロ伯爵、様! 様―――っ!!」

 あっという間に、がやがやと武器のまわりに漆黒の人だかりができて…
 時々武器の奪い合いでケンカをしたり、子供のようにはしゃぎながら、騎士たちは頬ずりをして、1つずつ選んでいた。


「/////////…っ」
<も… もしかすると、武器に夢中で… 僕がふしだらなことをしていたなんて… 誰も気づいていないかも?!>

 真っ赤な顔で呆気あっけにとられたアスカルが、武器に群がる漆黒の人だかりを見ていると…
 グランデは空になった木箱を逆さまにして、自分が羽織っていたマントを上にかけた。


「アスカル、ここに座れ! 腹が減ったから、俺たちは昼食にしよう」

「/////////…はい」
 言われるがまま、アスカルが木箱の上に腰を下ろすと…
 頬に残った涙の跡を、グランデは太い指でぬぐい、アスカルにチュッとキスを落とす。

「さぁ食べろアスカル! 食べて、元気になれ!」

「/////////…はい」
 グランデはクエジョから渡されたかごを開けて、中からローストビーフを挟んだパンを取り出し、真っ赤な顔のアスカルに手渡す。



 端から端へと、ゲージの針が振り切れそうなほど、次から次へと衝撃を受け続けたアスカルの魂は、今にも身体から抜け出しそうになっていた。
 





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

シャルルは死んだ

ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

処理中です...