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36話 執事のため息2
しおりを挟む朝食を整え、アスカルはグランデを呼びに中庭へ行ったが、姿が見当たらず… 執務室へ行くと、ちょうどグランデが扉を開き廊下へと出て来た。
「旦那様、朝食室にお食事のご用意ができました」
<旦那様と呼んだら、やっぱり怒られるかな?>
緊張気味にアスカルは、グランデに声をかけた。
「そうか、わかった… 村まで使いを頼みたいから、クエジョの息子のティエンポを呼んでくれ」
「はい、旦那様」
<あれ?! 旦那様と呼んだのに、何の反応もない?!>
「それと武器庫の鍵を出してくれ… 使えそうなのがあったら、王都へ持って行くから」
レガロ伯爵家の始まりは… 300年ほど前、当時の国王を、突然の魔獣の襲撃から守り、男爵家の3男だった初代当主は、国王を救った褒賞として伯爵位を与えられた。
初代当主にならい、レガロ伯爵家の血筋は代々騎士になる者が多く、何人もの優秀な騎士を輩出していて… 伯爵家の武器庫には、300年分の武器が眠っているのだ。
「では、朝食室へ鍵をお持ちします」
「ああ、頼む!」
キビキビと朝食室へ移動しながら、グランデは次々とアスカルに命令を出した。
夜明け前に結婚の申し込みをしたとは思えない、淡白な態度である。
「旦那様、王都へ本日立たれるとお聞きしましたが、何時頃こちらを出発されるおつもりですか?」
「そうだな… 武器庫を見た後、すぐに立つ」
「わかりました旦那様」
丁寧に頭を下げると、アスカルは武器庫の鍵を取りに、廊下の一番端の目立たない場所に設置された、使用人用の階段へ向かう。
<“旦那様” と呼んだら怒られるかと思ったけれど、何も言われなかったなぁ… それに素っ気なかったし… やっぱり、僕が結婚を断ろうとしたから、旦那様は気を悪くしておられるのかもしれない…>
何の装飾も無い、使用人用の簡素な階段を下りながら、アスカルの表情が曇った。
<でもこのまま… 旦那様が、僕をあきらめてくれるのなら… もしかして、弟だと言わなくても済むかも知れないよね…? ダメかなぁ…?>
狡い考えだとわかっていても… 愛する人を傷つけたり、嫌われたりすることを、望んでやりたがる人間はいない。
誰でも出来る限り、避けて通りたいと思うのが、普通である。
「こんなに寂しいと思うなんて… 僕は我がままだなぁ…?」
<ほんの少し、旦那様に素っ気なくされただけで、こんなに寂しがるなんて…>
涙がにじみそうになり… 顔をゴシゴシとこすり、寂しさを振り切ろうと頭を振ると…
ハァ―――ッ… と大きなため息をつき、アスカルは急いで階段を下りる。
○ ○お詫び○ ○
文字数が中編の域に入ってしまったので… 短編のタグを、長編に変更しました。本当にすみません!
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