上 下
34 / 105

34話 黒騎士、唸る グランデside

しおりを挟む

 当主の部屋を出て、グランデはガツガツと荒々しい靴音を響かせながら、腰に幅広の剣帯ベルトを装着し、小さな金具をいくつか引っ掛け剣を下げた。

 足を進めるごとにカチッ… カチッ… と腰に下げた剣から金属がこすれる音を立て、グランデは庭へ出る。


 中庭へ向かう途中の、木が生い茂り昼寝をするのに気持ち良さそうな、木陰の下までくると… グランデはギリギリと歯ぎしりをしながら、ピタリと立ち止まり…

「ぐううううううぅぅぅぅ―――っ…!!!」
 ギュッ…! と拳をにぎりしめ、グランデは激怒する野獣のように、低いうなり声をあげた。

「クソッ!! 何てことだ!! アスカルにオレとの結婚をこばまれるなんて!!」

 話の雲行きが怪しくなり、不穏ふおんな空気をまといだしたアスカルに…
 はっきりと結婚を断られるのを避けたくて、グランデは話の途中であわてて寝室を逃げ出したのだ。


<確かにオレは野蛮人で、お世辞にも上品とは言えないが… クソッ!! オレは他の貴族たちのように、何人もつがいをつくるような不誠実な人間ではないぞ?!>

 グランデに言い寄られるのではないかと心配し、自分がオメガであることを、必死になって隠そうとしていたアスカルの、不安を取りのぞいてやりたくて… “相手ぐらいいる” と言ってやっただけだった。


『いくらお前が綺麗なオメガでも、オレは使用人を口説くほど、飢えてはいないから心配するな! それに王都に行けば、オレの相手ぐらいいる』


<当主が消えたやしきを、誰に褒められることも無いのに、父親と一緒に何年も、地道に守り続けて来たアスカルに、オレは確かに、敬意と好感を持っていた… 
 けしてヤラシイ気持ちを、持っていたわけではないぞ?! まぁ… あれだけの美人は、王都でも見たことがないから、まったくその気が無かったと言えば嘘になるが… オレもアルファだから、少しぐらいドキドキするのは当たり前だ! オレのアスカルは、本当に綺麗だからな!>

「それにアスカルは可愛いし、仕方がない! うん!」
 怖い顔で地面をにらみながら納得し、グランデは大きくうなずいた。


<それよりもだ!! なんてひどい誤解をされているんだ?! オレは番が1人いれば、じゅうぶん満足できる男だし… 同時に何人も愛せるような、器用な性格でもないのに!!> 

 当然アスカルは、グランデにとって、初めての番だった。


「チクショ―――ッ!!」
<何といっても伯爵位だ!! オレが継いだ爵位も悪い!! 伯爵夫人にはなれないと… アスカルは言っていたからな?! つまりオレが以前のように平民だったら、アスカルは気持ち良く妻になることを承諾したかもしれない!! ああクソッ! 何てことだ! ああクソッ!!>


 グランデは、ガッ…! と頭を抱えてその場にうずくまり、苦悩にもだえる野獣のように、唸り声をあげて怒鳴った。

「ぐうぬぬぬぬぅぅぅぅぅぅ―――っ…!!! 何でこうなるんだ?!!!」



「ひいぃっ!!!」


 小さなさけび声が背後で聞こえ… あわててグランデは振り向き、悪魔のような形相で、さけび声をあげた庭師見習いの少年をにらみつけた。

「神… 神っ… 神様… どうか悪魔から…お救い下さい…っ!!」 

 少年はグランデの背後で泣きながら… ぶるぶる震える両手を合わせ、神に祈りを捧げていた。



「・・・・っ!!」
 悪魔の形相のグランデの頬が、うっすらと赤く染まった。


 大男で圧が強く、顔が怖いグランデは… 時々、悪魔きと間違われることがあるのだ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。 俺が王子の婚約者? 隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。 てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。 婚約は解消の方向で。 あっ、好みの奴みぃっけた。 えっ?俺とは犬猿の仲? そんなもんは過去の話だろ? 俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた? あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。 BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。 そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。 同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。

俺のスパダリはギャップがすごい 〜いつも爽やかスパダリが豹変すると… 〜

葉月
BL
彼女に振られた夜、何もかも平凡な『佐々木真司』は、何もかも完璧な『立花蓮』に、泥酔していたところを介抱してもらったと言う、最悪な状態で出会った。 真司は蓮に何かお礼がしたいと申し出ると、蓮は「私の手料理を一緒に食べていただけませんか?』と言われ… 平凡なサラリーマンもエリートサラリーマン。住む世界が違う二人が出会い。 二人の関係はどう変わっていくのか… 平凡サラリーマン×スパダリサラリーマンの、濃厚イチャラブストーリー♡ 本編(攻め、真司)終了後、受け蓮sideがスタートします。 エロ濃厚な部分は<エロス>と、記載しています。 本編は完結作品です٩(๑´꒳ `๑٩) 他にも何点か投稿しているので、もし宜しければ覗いてやってください(❃´◡`❃)

花霞に降る、キミの唇。

冴月希衣@商業BL販売中
BL
ドS色気眼鏡×純情一途ワンコ(R18) 「好きなんだ。お前のこと」こんな告白、夢の中でさえ言えない。 -幼なじみの土岐奏人(とき かなと)に片想い歴10年。純情一途男子、武田慎吾(たけだ しんご)の恋物語- ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆ 10年、経ってしまった。お前に恋してると自覚してから。 ずっとずっと大好きで。でも幼なじみで、仲間で、友達で。男同士の友情に恋なんて持ち込めない。そう思ってた。“ あの日 ”までは――。 「ほら、イイ声、聞かせろよ」 「もっと触って……もっとっ」 大好きな幼なじみが、『彼氏』になる瞬間。 素敵表紙&挿絵は、香咲まり様の作画です。 ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

転生して羽根が生えた僕の異世界生活

いんげん
BL
まったり転生ものです。階段落ちした主人公が、卵の中に、転生します。 本来なら番が迎えにくるはずなのに…どうなる主人公。 天人という羽の生えた種族の番に転生。 番のお迎えが間に合わず、ちっこい羽の出来損ないに…。主人公はアホ可愛い系です。 ちょいちょい変態っぽいエロが入ります。 当て馬が出て来ます。 かなりふざけたラブコメになりつつあります…そして、ツッコミ役は貴方ですwww 読みたいものを、書いてみようと思いチャレンジ! 色々未定です。タグはそのたびに増やします

王太子の秘密儀式~父王にはめられた⁉

金剛@キット
BL
王太子アニマシオンは学園を卒業し成人の儀を終えた。その夜、国王に呼び出され、なぜか媚薬を盛られてしまい、秘密の儀式を受けるよう命令される。 国王に従い、アニマシオンは秘密の扉を開き地下にある“秘儀の間”へ行くと… そこには美しい裸体をさらしたオメガの少年が待っていた。 国王に媚薬を盛られたアニマシオンは獣のように発情し、名前も知らないオメガの少年を、本能のまま抱き“番”にしてしまう。 少年の名はカジェ。王国にたった一人しか存在しない大賢者の弟子だった。 😘お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。 😡エロ濃厚です! ドスケベが嫌いな方には向かないお話です。ご注意を!

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

処理中です...