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33話 夜明け前2
しおりを挟む「ここで結婚しておいた方が、後々面倒が無くなるからな」
「・・・・・・」
胸の奥が急激に冷え… アスカルは青ざめた。
「急な話で戸惑うだろうが、王都で暮らすなら、伯爵夫人の身分はお前の役に立つはずだ! オメガでも従者を連れていれば、お前は一人で買い物だって行けるようになるぞ?」
宙をにらみながら、グランデは頬をぽりぽりとかいた。
「待って下さい、グランデ様! 王都へ戻ればグランデ様には、“お相手” がいると… 結婚はその方と、するのではないのですか?」
<だから僕は… いつかこの伯爵邸に、グランデ様の奥様を受け入れるのだと… そう思っていたのに?!>
庭師の老人に、孫を見習いとして雇い入れ、将来訪れる伯爵夫人の為に、庭が華やかに見えるよう、季節の花を育てて欲しいと… アスカルは依頼したばかりである。
「…何だって?!」
「先日… グランデ様が、お庭で剣に魔力を注いでいた時、“お相手” がいると… そうおっしゃられていたでしょう?」
「ああ! あれはだなぁ… うう~ん…」
使用人のアスカルに無理強いするぐらいなら、金を出して娼館に行けば、グランデの“相手” はいくらでもいるという意味だった。
いくらグランデが不器用な性格でも、そんな話を腕の中の番にするほど無神経ではない。
そこでグランデは眉間にしわを寄せ、アスカルに何と説明しようかと… しばらくの間、考え込んだ。
「どうか、気にしないで下さい! 僕は… グランデ様の番にしてもらっただけで十分です! だから結婚はしません」
「バカを言うなアスカル! 私の番だからこそ、お前が私の妻になるのは当然だろう?!」
「いいえ、グランデ様! 僕は最初から、あなたの妻になりたいと、望んではいませんでした… 僕のような田舎育ちのオメガが、伯爵夫人のように重要な役目を、立派に務められるとは思えませんから」
「そんなことを、気にしていたのか?! オレ自身が立派な伯爵ではないのに、妻のお前には立派な伯爵夫人になれと? オレはそんなことを、言うつもりはないぞ?!」
「でも僕は、グランデ様の妻にはなれません!」
「…ああ! もしかしてお前は、この地を離れるのが嫌なのか?」
「・・・・・っ」
<本当に結婚できるのなら、グランデ様にどこまでも、付いて行きたいぐらいだけど… でも、それは弟だから出来ないよ>
「アスカル、そうなんだな?!」
「いいえ、違います! 僕は… 僕は…」
<今こそ、僕が腹違いの弟だと、グランデ様に伝える時だ… 今こそ…!>
「わかった! なら、お前はこちらで暮らし、オレはここまで通うことにする… いくら何でも急すぎたな、すまないアスカル! お前が不安になるのも無理はないな…」
「え? いえ… あの… グランデ様!」
「ああ、もうすっかり朝だな… そろそろ起きるか!」
グランデは窓の外を見て、アスカルと話をしているうちに、夜が明けたことを知り、ベッドから出て服を着ると…
アスカルの唇にキスをして、剣を持って足早に部屋を出て行ってしまう。
「ああ… グランデ様… 僕はあなたの弟なので… あなたの妻にはなれません…」
一人寝室に残されたアスカルは… 伝えたくても、上手く伝えられなかったことをつぶやいてみた。
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このお話はスペイン語から、命名しております。 アスカル→砂糖。 黒騎士グランデ→大きい。 レガロ伯爵→贈り物。 アニマシオン王太子→応援。 父ペスカド→魚。 先代伯爵リコル→酒。 メイドのクエジョ→襟(えり)。 神官カスカダ→滝。 個性的で面白い名前ばかりですが、あまり馴染みが無いから覚えにくいかな? お世話になりました、スペイン語! ◯命名センスが最悪なので、異世界モノのお話の時はいつも外国の単語からもらうことにしています☆彡
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