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29話 昼食 グランデside

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 当主の部屋へ用意させた2人分の昼食を見て… アスカルが苦笑いを浮かべた。


「グランデ様… これはどう見ても、4人分の量ではないですか?」

「そうか? オレはこれぐらい食べないと、体力が落ちて魔力の流れが悪くなるんだ」

「そういうものですか?」
 アスカルは首をかしげてグランデを見た。

「昨日の魔獣退治で、お前が作った氷の矢が、途中で細く不安定になっただろう? あせって射たのも原因の一つだが、一番は体力不足で魔力の制御が不安定だからだ」
 
「えええ~っ?!」

「オレの経験上、それは間違いないから… 魔法の訓練も大事だが、その前にしっかり食事をとって、とにかくお前は体力をつけろ!」
 グランデはじろりと怖い顔でアスカルをにらむ。
  
「は、はい……」
 いつもより倍の食事を見て、アスカルは自信無さげにうなずく。


 グランデはあっという間にぺろりと食べ終え… アスカルが食べ残した分も…
「仕方ないな!」
 …と、グランデのお腹の中へ、綺麗に消えた。



「んんん~…っ…」
 お腹がいっぱいになったアスカルは、掌で口を隠し、子供のようにふあぁぁ~… と大あくびをする。

「はははっ… 眠そうだな、アスカル!」 

「うう… やることが山積みなのに… 申し訳ありません、グランデ様」

「今日のお前の仕事は、眠って体力を取り戻したら、たっぷりオレに抱かれることだ!」
 グランデは怖い顔でニヤリと笑い…

「/////////っ!!」
 シャツの下からすらりとのびた細い足まで、アスカルは真っ赤に染まる。



 再びアスカルを抱き上げて、グランデは寝室へ運びベッドへ寝かせると、上掛けを肩までかけて… アスカルの頬に首筋、額、唇にグランデはキスを落とす。


「お前のつがいとなったオレの種を、お前の腹にき続ければ、オメガの本能が満たされて、お前の発情は軽くなり、早く終わるはずだからそんなに嫌がるな」

「いえ… その… 僕は、嫌がっては… いませんから…」
 グランデが肩までかけた上掛けを、アスカルは鼻の上まで引き上げ… 淡い藤色の瞳だけを出して、恥かしそうにする。

「そうか!」
 ニヤリと嬉しそうにグランデは笑った。

「グランデ様はアルファなのに… オメガの身体について、とても詳しいですね? 少し驚きました」

「ああ、それはオレが…」
 その後の言葉をつむぐのをグランデは躊躇ためらった。

<オレは娼館育ちで母親が娼婦だから、自然とオメガの体質について詳しくなったのさ…>


「グランデ様?」

「ほら、眠いだろう? もう寝ろ!」
 大きな手でグランデはアスカルの頭をなでた。

「はい…」
 一瞬… アスカルは不思議そうな顔でグランデを見たが… 何も聞かずに目を閉じた。



「・・・・・・」
<アスカルには、先に話しておけば良かったな… 王都の貴族たちは、オレが娼婦の息子だと知らない奴はいないが、こんな地方の田舎までは、さすがにオレの噂は広がっていないらしい… 神官夫妻の態度を見ると、恐らくそんな感じだ>

 どれだけグランデが魔獣討伐とうばつで実績を積んでも、王都の神官たちは貴族たちと同様に、グランデを蔑視べっしするのを止めようとしない。

 蔑視しなくても、グランデと顔を合わせると、そわそわと気まずそうにしたり… 何らかの反応を見せる。

 だから、分かるのだ。

 グランデと会っても動揺を見せない神官カスカダとタルデ夫妻は、グランデの境遇を何も知らないのだと。

 伯爵邸をおとずれる前、アスカルに送った手紙で…
平民出身だがグランデはレガロ伯爵家の非嫡出子で、伯爵位を継ぐことになったと簡単に伝えてあるが、娼館育ちとは伝えてない。

<娼婦になっても、オレを守り育てた母と共に、娼館で生きて来たオレの境遇を恥じる気は無いが… だが、そのことを知ったアスカルの瞳に、さげすみの陰が浮かんだら…?! オレはきっと、アスカルに失望する…>

 グランデはそれが気がかりで、アスカルに自分の生まれについて、伝えられないでいた。


 ス―――ッ… ス―――ッ… と寝息をたて始めたアスカルを残し、グランデは静かに寝室を出る。




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