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20話 不慮の出来事 グランデside

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 神官カスカダに事情を話し、後始末を任せると… 騎士服で包んだアスカルを抱いたまま、自分の馬に乗り、グランデはあわてて村の神殿へと向かった。

 グランデ自身もアルファだが、親しい仲でも神官カスカダもアルファのため、気軽にアスカルを預けるわけには行かず… だからと言って、軽症でも傷ついたアスカルを、農家に置き去りにするわけにも行かず、結局グランデが無防備なアスカルを連れて帰ることにしたのだ。


 ドカドカと馬で神殿の正面まで乗り付け、グランデは馬上から大声で怒鳴る。

「神官カスカダ殿の奥方殿は、こちらにおられるか―――っ?!」

 害獣被害が出たと聞き、アスカルと夫カスカダが無事に帰れるよう、ちょうど神殿で祈りを捧げていた、カスカダの妻タルデ夫人が、グランデのただならぬ呼びかけに驚きあわてて飛び出して来た。


「まぁ?! 黒騎士様、何か…っ?! アスカル…っ?! ああ、何てこと…っ! アスカルがケガをしたのですか?!」
 グランデが腕に抱く、ぐったりと目を閉じるアスカルの姿を見つけて、タルデ夫人は小さな悲鳴をあげる。

「いや奥方殿、ケガの方は大したことは無いのだが… それよりもオメガ用の抑制剤は手に入るだろうか?! 魔獣とやり合った時に、アスカルの抑制リングが壊れてしまって!!」 

「……あら!」 

「まずいことに… ここに戻る途中から、どうやら発情が始まったらしくて」
 グランデが見下ろすと、頬を真っ赤に染めて、アスカルはグランデの腕の中で、ハァッ… ハァッ… と熱い息をはいていた。
 
 グランデ自身は、腕にアルファ用の抑制リングを付けているため、アスカルの誘惑フェロモンに、影響を受けることなく済んでいた。

「ああ、可哀そうに! この子は長い間、抑制リングで発情とフェロモンを抑え込んでいたから… 突然、抑制リングがなくなって、その反動が出てしまったようね」 

「なるほど… この発情は、そういうことだったのか! クソッ!」
 悔しそうにグランデは、眉間にしわを寄せた。

「あ… タルデ様…? 僕は大丈夫です… 我慢できますから…」
 タルデ夫人の声に反応し、アスカルは目を開き、強がりを言うが… 見るからに、苦しそうで、グランデとタルデ夫人の心配を増々あおった。

「奥方殿、オメガの抑制剤は無いか?」

「残念ながら黒騎士様、高価なオメガの抑制剤はこのような田舎では、簡単には手に入りません… ですから私も、アスカルに抑制リングを譲ったのですが… 困ったわ… つがいのいないオメガが抑制剤を使わずに発情期を迎えるなんて…」 

 簡単な治癒魔法が使えるタルデ夫人がいるため、村には医者もいないのだ。

 
「クソッ!! こんなことなら魔獣退治になど、参加させるのではなかった!! オレの完全な判断ミスだ!! クソッ!!」

 人間の持つ魔力を主食としている魔獣は、通常では人が多い場所、村などの近くに出没するのが常識で、今回のようにほとんど人のいない農家に出ること自体がまれなのである。

 そのため、地方の神殿が無い、規模の小さな村など… グランデが所属する黒騎士団はそういう場所で、魔獣討伐とうばつ戦を行うことがほとんどだった。

 さすがに、人が密集して暮らす王都には、大規模な結界が張ってあり、魔獣が侵入することは無い。

<王太子殿下、そろそろ魔王復活の報を民たちに伝えた方が良いのかもしれないぞ?!>
 王都に戻ったらすぐに、グランデは王太子に進言しようと決めた。



 苦しそうに呼吸する、アスカルの頬にかかる銀の髪を、グランデは指先で払う。

「可哀そうだがアスカル、今は耐えるしかない」

「は… はい… 旦那様… 大丈夫です… 申し訳…ありません…」


 アスカルの身体中にある、打ち身のケガを、タルデ夫人の治癒魔法で治療してもらい、グランデは急いで伯爵邸へ戻った。





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