黒騎士はオメガの執事を溺愛する

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
19 / 105

19話 害獣駆除2

しおりを挟む
 石垣いしがきの陰から飛び出したグランデは、魔獣たちの背後から剣に魔力を流し、剣圧に乗せて横になぎ払うが…

「クソッ! 浅かったか!! デカブツめ!!」
 一振りで3頭の魔獣を殺し、4頭目に浅い傷をつけ… 素早くとどめをを刺そうと剣を突き立てる。



「すごい… 旦那様の剣が!! 」
 グランデの剣から勢いよく噴き出した深紅の魔力が刃となり、魔獣の身体を2つに切り裂くのが、離れた場所にいたアスカルにも、しっかりと見えた。

「僕も魔獣の1頭ぐらいは… いつも通り退治してやる…っ!!」  
 魔獣を切り伏せるグランデの援護のため、アスカルも長弓で狙いやすい位置まで移動して矢を射る。

 攻撃魔法に慣れていないアスカルは、3射ほど氷の矢を放ち、ようやく1頭めの魔獣の動きを止めた。

 ギヒィー… ギヒィー… ギヒィー… ギヒィー… と悲鳴をあげ、地面をのたうちまわる魔獣にとどめを放つと、アスカルはフゥ―――ッ… とひと息つく。


「アスカル!! 油断するな―――っ!!」

 グランデの怒鳴り声があたりに響き、アスカルはハッ… と顔を上げると… 最期の1頭がアスカルの魔力に引かれ、真っすぐ突進して来た。

「・・・っひ?!」
 あわてて弓を引くが、長弓に流したアスカルの魔力は、あせって中途半端なものとなり、細く頼りない氷の矢しか放てなかった。
 
 それでも顔に命中するが、魔獣の勢いを止めることは出来ず… 
 もう一度矢を射ようと、アスカルは震える手で懸命けんめいに弓を引くが、今度もあせって魔力を上手く流せず、氷の矢を作れなかった。

 魔獣の顔に生えた、黒と灰色のまだらになったゴワゴワとした体毛が見えるほど、目の前に魔獣がせまり…
 アスカルにおおいかぶさるように飛びかかって来る。

<あ… 死ぬ?>
 アスカルの脳裏にそんな言葉が浮かんだ瞬間… 深紅の輝きが魔獣の首を切り裂いた。

 ドゴゴッ…! と、にぶく大きな音を立て、飛びかかって来た魔獣に押しつぶされるように、アスカルは地面に倒れ… 魔獣の下敷きとなってしまう。

「ううぐっ…?!」

「アスカル…!!」
 牛サイズの魔獣の下敷きになり、圧死寸前のところで、アスカルはグランデに助け出されたが…
 真っ黒にけがれた腐臭が漂う魔獣の体液をまともに浴びてしまっていた。

「神官殿!! 急いで浄化を!! これではアスカルが瘴気に侵されてしまう!!」


「お任せ下さい、黒騎士殿!!」
 アスカルを心配した神官カスカダが、真っ青な顔で走り寄る。 

「カスカダ様… うっ…」

「よしよし、良い子だアスカル… よく頑張ったね、すぐに綺麗にしてやろう…」
 涙目のアスカルを穏やかになだめながら、神官カスカダは掌からあふれる純白に輝く浄化の光で、地面に寝かされたアスカルの身体を包み込んだ。

 カスカダが放った浄化の光が辺りに漂っていた瘴気を綺麗に消し去り、同時に不快な腐臭も無くなり、グランデはホッ… とため息をついた。

「黒騎士殿、アスカルをお願いします! 私は魔獣の死体を浄化しなければいけませんから」

「よろしく頼む、神官殿!」




「目立った傷は無いように見えるが…?」
 魔獣の体液にまみれ、ドロドロに汚れたアスカルの服を、グランデは手早く脱がしながら、ついでにケガの有無を確かめる。

 アスカルの汚れた顔や髪を、グランデは自分の首に巻いていたスカーフでぬぐい… 騎士服の上着を脱いで裸の身体を包んだ。

 神官カスカダはアスカルの身体を浄化し、瘴気をはらうことは出来たが、ドロドロの汚れまで清潔に落とすことは出来ないからだ。

 念のために、グランデはアスカルが着ていた魔獣の体液まみれの服に、ボッ…! と魔法で火をつけ灰になるまで燃やした。

「アスカル… 痛いところはあるか?」
 
「うう… 申し訳ありません… 旦那…様… うっ… 旦那様…」
 グランデに呼びかけられ、うめき声をもらしアスカルは薄っすらと淡い藤色の瞳を開く。

「どこが痛む?」

「体中が… バラバラになりそうなほど、痛いです… でも、我慢出来ないほどではありません…」
 身体中に打ち身はあっても、アスカルの命に関わるような重いケガは無かった。

「そうか… それは良かった」
 子どもをなだめるように、額にキスを落とすと… グランデはアスカルを抱き上げた。


 アスカルの手首から、ポロリッ… と何かが落ち… グランデは何が落ちたのかと地面を見下ろし、パカリッと口を開きぼうぜんとする。



 そこには… 
 綺麗に真ん中で割れた、オメガ用の抑制リングが、落ちていた。 







しおりを挟む
このお話はスペイン語から、命名しております。 アスカル→砂糖。 黒騎士グランデ→大きい。 レガロ伯爵→贈り物。 アニマシオン王太子→応援。 父ペスカド→魚。 先代伯爵リコル→酒。 メイドのクエジョ→襟(えり)。 神官カスカダ→滝。 個性的で面白い名前ばかりですが、あまり馴染みが無いから覚えにくいかな? お世話になりました、スペイン語! ◯命名センスが最悪なので、異世界モノのお話の時はいつも外国の単語からもらうことにしています☆彡
感想 13

あなたにおすすめの小説

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

処理中です...