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18話 害獣駆除
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レガロ伯爵邸から北へ馬で3時間ほどの場所にある、害獣被害が出たという農家まで来ると…
凶暴化し、牛サイズまで大きくなったイノシシが、6頭ほど農家の回りをうろつき、中に隠れる人間たちの魔力に引かれ、長くのびた牙や爪で石壁をガツガツとけずっていた。
人間の血肉を喰らい、魔力を奪う気なのだ。
アスカルとグランデ、神官カスカダは乗って来た馬を少し離れた林の中につなぎ… 農家の敷地をグルリと囲む、石垣の陰に隠れて、獣たちのようすを観察していた。
「何が害獣だって?」
グランデはぽつりとつぶやいた。
「申し訳ありません、旦那様」
アスカルは呆然と、その光景を見ていた。
「あそこまで、立派に魔獣化した獣たちは、私たちも初めて見ました」
村の神官カスカダが、なぜか感心したように魔獣を見ている。
「神官殿の報告では、イノシシが2頭だけだと聞いたが… 何処かに隠れていたようだな?」
ハァ―――ッ… と大きなため息をつき、グランデは頭をガシガシとかいた。
「やはり、今回は青騎士に応援を頼みましょう」
不安げにグランデを見あげ、アスカルは提案するが…
「だが、家の石壁に穴をあけて、中に侵入するのも時間の問題だろう… 青騎士が到着するのを待っていたら、家の中の住民たちに死傷者が出てしまう」
「どうしましょうか、黒騎士殿?」
残念ながら神官のカスカダは、浄化の魔法は使えるが、攻撃魔法は苦手で… 魔獣退治では戦力外となるのだ。
元々、神官カスカダは事後処理の浄化作業ため、アスカルに付いて害獣駆除の現場に足を運んでいる。
完全に魔獣化していない凶暴化しただけの害獣でも… 退治した後、その死体や流れ出た血から、瘴気が発生することがわかり、なるべく早く浄化作業を行い、瘴気の発生を最小限にすることが重要だった。
「魔獣たちは魔力に引かれる性質があるから、オレが群れの中に切り込めば、奴らの気を引けるはずだから… アスカル、お前は無理せず後方から援護してくれ!」
「はい!」
肩に掛けていた長弓を手に持ち、アスカルはかまえた。
アスカルが持つ長弓は、レガロ伯爵邸の応接室に、長い間飾られていた武器の1つで、勝手に借りて使っている。
(もちろんグランデは、使えるのなら飾ってないで、全部使えと武器の使用を許可した)
矢は長弓に組み込まれた魔法により、使い手であるアスカルの魔力で作られる仕組みだ。
緊張し密かに震えるアスカルを見て、グランデは青ざめた頬をこちょこちょと指先でくすぐる。
「そう、硬くなるなアスカル! お前の主人がどれだけ強い騎士か、今から見せてやるから楽しみにしていろ!」
珍しくグランデは軽口をたたき、アスカルの薄い耳に素早く唇を寄せ、チュッ… とキスをする。
「ひゃあっ?!」
その場でアスカルは真っ赤になって飛び跳ねた。
「はははっ…」
アスカルの緊張を解そうと、衝撃的な悪戯をした後、腰に下げた剣を抜き、グランデは石垣の陰から飛び出し、魔獣の群れに切り込んだ。
凶暴化し、牛サイズまで大きくなったイノシシが、6頭ほど農家の回りをうろつき、中に隠れる人間たちの魔力に引かれ、長くのびた牙や爪で石壁をガツガツとけずっていた。
人間の血肉を喰らい、魔力を奪う気なのだ。
アスカルとグランデ、神官カスカダは乗って来た馬を少し離れた林の中につなぎ… 農家の敷地をグルリと囲む、石垣の陰に隠れて、獣たちのようすを観察していた。
「何が害獣だって?」
グランデはぽつりとつぶやいた。
「申し訳ありません、旦那様」
アスカルは呆然と、その光景を見ていた。
「あそこまで、立派に魔獣化した獣たちは、私たちも初めて見ました」
村の神官カスカダが、なぜか感心したように魔獣を見ている。
「神官殿の報告では、イノシシが2頭だけだと聞いたが… 何処かに隠れていたようだな?」
ハァ―――ッ… と大きなため息をつき、グランデは頭をガシガシとかいた。
「やはり、今回は青騎士に応援を頼みましょう」
不安げにグランデを見あげ、アスカルは提案するが…
「だが、家の石壁に穴をあけて、中に侵入するのも時間の問題だろう… 青騎士が到着するのを待っていたら、家の中の住民たちに死傷者が出てしまう」
「どうしましょうか、黒騎士殿?」
残念ながら神官のカスカダは、浄化の魔法は使えるが、攻撃魔法は苦手で… 魔獣退治では戦力外となるのだ。
元々、神官カスカダは事後処理の浄化作業ため、アスカルに付いて害獣駆除の現場に足を運んでいる。
完全に魔獣化していない凶暴化しただけの害獣でも… 退治した後、その死体や流れ出た血から、瘴気が発生することがわかり、なるべく早く浄化作業を行い、瘴気の発生を最小限にすることが重要だった。
「魔獣たちは魔力に引かれる性質があるから、オレが群れの中に切り込めば、奴らの気を引けるはずだから… アスカル、お前は無理せず後方から援護してくれ!」
「はい!」
肩に掛けていた長弓を手に持ち、アスカルはかまえた。
アスカルが持つ長弓は、レガロ伯爵邸の応接室に、長い間飾られていた武器の1つで、勝手に借りて使っている。
(もちろんグランデは、使えるのなら飾ってないで、全部使えと武器の使用を許可した)
矢は長弓に組み込まれた魔法により、使い手であるアスカルの魔力で作られる仕組みだ。
緊張し密かに震えるアスカルを見て、グランデは青ざめた頬をこちょこちょと指先でくすぐる。
「そう、硬くなるなアスカル! お前の主人がどれだけ強い騎士か、今から見せてやるから楽しみにしていろ!」
珍しくグランデは軽口をたたき、アスカルの薄い耳に素早く唇を寄せ、チュッ… とキスをする。
「ひゃあっ?!」
その場でアスカルは真っ赤になって飛び跳ねた。
「はははっ…」
アスカルの緊張を解そうと、衝撃的な悪戯をした後、腰に下げた剣を抜き、グランデは石垣の陰から飛び出し、魔獣の群れに切り込んだ。
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