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16話 深紅の輝き

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 ガーデンパーティー用に芝生が敷かれた中庭へ行くと… あるじグランデは、見るからに重そうな大剣をさやから抜いて見ていた。


 ピンッ… とその場を支配する張り詰めた空気が、グランデに声をかけるのをアスカルにためらわせる。

 アスカルは黙って主の姿を見つめていると、グランデの身体から金色の粒がキラキラと立ち上り… 少しずつ量が増え、金色の粒は、深紅の粒へと変化した。

「・・・っ?!」
<ああ… 何て綺麗な魔力だろう…?! 深紅の輝きが、旦那様にたわむれているみたいだ 光の粒、一つ一つに意志があるように… 旦那様の周囲で踊っている!!>

 息をのむような美しい光景に心を奪われたアスカルは… ただ、ただ、グランデに見惚れてしまう。

 深紅の光の粒が身体からふわりと離れ、グランデが持つ大剣にはめ込まれた赤い魔石に吸い込まれ、刃が深紅に染まる。
 
 しばらくすると、フッ… と深紅の魔力が消え、グランデは静かに大剣を鞘へ納めた。

 思わずアスカルはハァ―――ッ… と大きなため息をつき、グランでの元へ向かう。


「おはようございます旦那様」
 丁寧にお辞儀をしてアスカルが朝の挨拶をすると… 主が不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。

「ああ、おはようアスカル」

「魔法の訓練の… お邪魔をしてしまいましたか? 申し訳ありません旦那様! 」
<どうしよう?! 失敗した! まだ、声をかけては、いけなかったみたいだ!!>

「いや構わない… それよりオレに何か用か?」

「朝のお食事は、朝食室にご用意してもよろしいでしょうか?」

「それで良い… 用はそれだけか?」
 やしきに向かってグランデが歩きはじめ、アスカルは主の後ろについて歩こうとするが…
 グランデは立ち止まり、顎をクイッ… と振って、アスカルに隣を歩けと指示する。

「はい、他に何か旦那様のお役に立てることはありますか?」
 主の指示に従い、アスカルが隣に並んで歩き始める。

「今は無い… それよりお前、自分がオメガなのを隠したいなら、魔力が見えても見えないフリをしろ」

「は?!」

「魔獣退治の時に強力な魔法を続けて使えるように、オレは剣の魔石に、魔力を溜めていたのだが… お前にはオレの魔力の流れが、見えていたのだろう?」

「・・・っ」
 魔力の流れを見るには… 魔力をあつかえる素質が無ければ、見れない。
 つまり、生まれつき魔力をあつかう素質が無い、ベータには見れないのだ。

 魔力の流れが見えなければ…
 単に鞘から抜いた剣をグランデは見ていただけで、魔法の訓練をしているとアスカルが勘違いすることも無かった。
 

 体内から流した深紅の魔力の粒に圧倒され、アスカルが見惚れていたのを、グランデはとっくに気が付いていた。

「旦那様… 私は… あの…っ」
 青ざめた顔で、あたふたとあわてるアスカルに、グランデは大きなため息をついた。

「それとお前のシャツを新しくしろ! 短い袖の下からチラチラとオメガ用の抑制リングが見えているぞ?」

「あっ?!」
 シャツも服も父の執事服のお下がりを受け継いだため、肩幅は余裕だが、袖丈とパンツの裾丈が短かく…
 そこで、村に住む裁縫上手な婦人に頼み、ギリギリまで丈を伸ばしてもらったが、それでもアスカルには少し短めだった。

「いくらお前が綺麗なオメガでも、オレは使用人を口説くほど、飢えてはいないから心配するな! それに王都に行けば、オレにだって相手ぐらいいる」

「旦… 旦那様…」

「・・・・・・」
 グランデはアスカルの頭を、子供をなだめるようにぽんぽんとする。

「旦那様…」

「アスカル、わかったな?」
 面倒な言い訳はするなと、グランデはじろりとアスカルをにらむ。

「は… はい」

「良し、朝飯にするぞ!」
 グランデはうなずき、ニヤリと笑った。




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