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15話 当主の印象2

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 夜明け前に起きて、身なりを整えたアスカルは、半地下にある厨房へ行こうとした時… 
 窓からあるじグランデが、剣を腰に下げて庭へ出て行く姿を見つけた。

<わぁ… さすが騎士様! 朝が早いなぁ!! でも何をされるのだろう?!>
 あわててアスカルは使用人用の裏口から、グランデの後を追い庭へと出る。


 足早に歩きながら、庭のあちこちに視線を移しアスカルは渋い顔をした。

<旦那様が本邸こちらにいらっしゃることが多くなるのなら、これからはもう少し、庭が華やかに見えるようにしないと! お客様をお連れになることもあるだろうし… これでは旦那様に、恥をかかせてしまう!>

 長年伯爵家に仕えてきた、村から通って来る高齢な庭師を気づかい、アスカルも時間があれば、庭の手入れを手伝っている。

 だが、先代リコルは庭に熱心な興味を示すような主ではなかったため… 自然と手間のかかる、季節ごとに咲く花などは植えなくなり、元から植えてあったバラや花木の世話をするだけなので、常緑樹が中心の面白みのない庭となっていた。

<まずは裏庭で花の種を蒔いて、今年は苗を育てて庭に植えよう!! 伯爵位を継いだのだから、旦那様はさっそく奥方様を迎えることになるかもしれないし?! これは急がないと!!>

 何となく切ないような寂しいような… そんな複雑な気持ちになり、アスカルの胸の奥がヂクヂクとうずき、思わず胸を押さえた。


 前日、晩餐ばんさんの時間までアスカルは、主グランデと二人っきりで執務室にこもり、領地の運営について話し合った。

 口は悪いが、主グランデはけして性根の腐った人物ではなく… むしろ、騎士業を何より優先する、責任と義務を重んじる仕事熱心で勤勉な人なのだと、アスカルは感心していた。


『4年間、当主のいないこのやしきで、よく頑張ったなアスカル』

『こっちの家は王都から遠くて、オレは頻繁ひんぱんに帰って来ることは出来ないが、なるべく顔を出すようにするから… 何か困ったことがあれば、王都の邸ではなく、黒騎士団のオレ宛てに手紙を出せよ?!』

『ありがとうございます、旦那様!』

『普段の管理は全部、お前に任せてしまうのだから、そういう時ぐらいは遠慮なく頼れ! 一応、オレは伯爵様らしいからな!』 

『一応ではなく、間違いなく旦那様は伯爵様ですよ』


「今は、お1人だけど… 旦那様はあんなに素敵な方だし、恋人がいてもおかしくない… きちんと旦那様にたずねてみよう… 奥方様を迎えるのなら早めに準備が必要だからね」

<僕の兄さんに奥さんかぁ… どんな人だろう? どちらにしても、僕が腹違いの弟だと、旦那様に伝える気はないけどね…>


 初めて会った頼りになる兄に… 
 力強く雄々しいアルファに… 

 恋心に似た感情を抱き始めていることに、アスカル自身は気付かなかった。





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