3 / 105
3話 悪夢の始まり3
しおりを挟むようやく仕事を終え、使用人用の屋根裏部屋に戻り、膝まである寝衣に着替えたアスカルは… ベッドにドサリッ… と腰を下ろし、小さくなったろうそくの火を吹き消した。
窓から入る月明かりの中でぼんやりとうつむき… アスカルはオメガの客に殴られ、腫れてしまった頬を、水で濡らした布で冷やしながらため息をつく。
「やっちゃったぁ… あ~あ…」
<伯爵様はお酒に酔って、機嫌良く笑っていたけれど… 明日になったら、僕を辞めさせようとするかも知れない!! そうなったら、僕を雇うと決めたお父さんにまで、迷惑をかけてしまう!!>
悔しくて… 情けなくて… 父親に申し訳なくて… 自分の部屋に戻り、1人っきりになったとたん… アスカルの淡い藤色の瞳に涙がにじんだ。
「うっ……」
<恥ずかしいよ… お父さんに僕は大丈夫だ、仕事を頑張ると… あんなに大きなことを言っていたのに、伯爵様の姿を見たら急に怖くなって、ぶるぶる震えながら緊張してしまうなんて!! どうすれば良いの?!>
ぐすぐすと鼻をならしながら、頬を冷やす濡れ布で涙をふき、これ以上涙が出ないように、まぶたの上から布を当てた。
カチッ…! とアスカルの部屋のドアが開き、古くなった床板がギシッ…となる。
誰かがアスカルの部屋に入って来て、パタンッ… とドアを閉める。
<ああ… 心配してお父さんが、僕の顔を見に来てくれたんだ?>
目の上から布を取り、アスカルが父の顔を見ると…
「お前には厳しい罰を与えなければ、いけないな… お前のせいで、今夜の楽しみが逃げ出してしまったし」
「伯… 伯爵様?!」
アスカルの屋根裏部屋に来たのは、父ペスカドではなく… 雇い主のレガロ伯爵リコルが酒臭い息をはきながら、欲望で瞳をギラつかせ、アスカルの前に立っていた。
「晩餐の時からお前はオメガのフェロモンをまき散らして、私を誘惑していただろう? お前の淫らな視線にも気づいていたぞ」
酔っているとは思えないほど、伯爵は素早い動きでアスカルをベッドに押し倒し… アスカルの細い両方の手首を、伯爵は片手でまとめてつかみ、押さえつける。
確かにアスカルはオメガだが、フェロモンと発情を抑制するための、魔法が組み込まれたブレスレット型の魔道具を、神官夫妻に渡され… 常時、手首にはめているため、父のようなベータとほとんど変わらないはずだった。
「そ、そんな違います! 僕はそんなことしません! だって、僕は…」
僕はあなたの息子です! とアスカルは言おうとするが…
腕の自由を奪われ、伯爵に薄い寝衣を首からお腹までいっきに引き裂かれ、胸をなで回された。
アスカルは… 今から自分が、実の父親に何をされようとしているのかを知る。
11
お気に入りに追加
672
あなたにおすすめの小説
おうちにかえろう
たかせまこと
BL
この世には理から零れ落ちてしまった存在がある。
呪い師はそんな存在の一つ。
呪い師の弟子、夜長と照葉は、お互いを大事に思いながらも一歩踏み出せないでいた。
二人が互いを思いあってゆっくりと関係を結んでいく話。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる