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2話 悪夢の始まり2

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 当主のレガロ伯爵は普段、王都の邸宅で暮らしていて、たまにしか田舎の領地にある本邸には戻ってこない。

 そのため、使用人も近くの村から通って来る者がほとんどで、その人数も伯爵邸を維持するには、規模に対して少な過ぎた。

 住み込みで働くアスカルの父は、執事以外の仕事もこなしているため… 毎日、苦労の連続だった。

 そんな忙しい父を助けたくて、アスカルは伯爵邸で働こうと決めたのだ。


 だが…

 前触れも無く、王都から若いオメガを連れて、伯爵邸へ戻って来たレガロ伯爵の晩餐ばんさんで、メイドの手配が間にあわず、作法を覚えたばかりのアスカルが、父と共に給仕をすることとなった。

 緊張からぶるぶると震える手で、伯爵が連れて来た貴族の令息らしい若いオメガ客の前に、アスカルがお皿を置こうとした時、話に夢中になっていた客が手を振り上げた。

「でも伯爵様、ふふふっ… 僕はもっ… うわぁっ…?!!」

「あっ!!」
 オメガの客が振り上げた手が、運悪くアスカルの手首に当たり、お皿に並べられたグリーンの香草ソースをかけたローストビーフが、べちゃっ…! と音をたててオメガ客の顔にかかり、ドロリと顎から胸にすべり落ちる。


「…申… 申し訳ありません!! 今すぐ…っ!」

「この…っ!」
 怒ったオメガ客は立ち上がり、真っ青になったアスカルの頬を… パンッ! と容赦ようしゃなく殴った。

「う…っ…! 申っ… 申し訳ありません! どうかお許しを!」
<僕はなんてドジなんだ! どうしよう!! どうしよう!! 伯爵様に嫌われてしまう!! ああ、執事見習いを辞めさせられたらどうしよう!! ごめんなさい、お父さん!!>

 殴られて赤くなった頬を押さえ、アスカルは必死に謝罪を繰り返した。

「申し訳ありません! すぐに新しいものをお持ちします」
 執事の父もあわてて顔をふく布をオメガの客に渡し、汚れたテーブルを片づけながら、アスカルと謝罪を繰り返す。


「なんて無礼なやつだ!! 伯爵様、こんなやつには厳しい罰をあたえて、今すぐ追い出して下さい!!」

「アハハハハッ…! クックッ… お前、魔獣でも食ったのか? 顎に緑のヨダレみたいなのがくっ付いているぞ?! これは傑作だ!!」
 ワインを1本飲み干し、すでに酔っていた伯爵は、怒ったオメガの客を慰めるどころか… ゲラゲラと笑い続けた。

「なんてひどい人ですか… レガロ伯爵様!! 僕はこんな侮辱には、耐えられません!!」
 自分に恥をかかせた、アスカルへの厳しい罰を期待していたオメガの客は、ゲラゲラと指をさし、いつまでも下品に笑う伯爵に激しく腹を立て、そのまま王都へ帰ってしまった。


 この時の失敗が…

 長い長い悪夢に、アスカルがとらわれるきっかけとなった。





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