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1話 悪夢の始まり
しおりを挟む母親がいないアスカルは赤ん坊の時から、村にある神殿の神官カスカダとタルデ夫妻の家に預けられていた。
そんなアスカルも14歳になり、レガロ伯爵邸で執事として働く父親から仕事を学ぶため、タルデ夫妻の家を出て伯爵邸の最上階にある、使用人用の屋根裏部屋で暮らすことになった。
「なぁアスカル、お前はオメガだし魔力もあるのだから… 無理して私の仕事を引き継がなくても良いのだよ? いつも言っているように、神官様にお前の嫁ぎ先を、見つけてもらうことだって、できるのだから?」
アルファとオメガには魔力をあつかえる素質が生まれつきあり、魔法を使うことができるが… ベータには魔力をあつかう素質が無く、体内に魔力を持っていても魔法を使うことができない。
執事の師匠となる父ペスカドはベータで、髪の色はすっかり白くなってしまったが、年をとっても変わることのない、穏やかな茶色の瞳を曇らせ… 息子のアスカルの細い肩に手を置き、心配そうに見下ろした。
「僕はお父さんのように、立派な執事になりたいだけで… 本当に無理はしてないよ?」
淡く優しい藤色の瞳でアスカルはニコリと笑う。
執事見習いになるために、肩まであった銀の髪を父と同じように短く切りそろえ、以前よりアスカルはほんの少し大人びた表情を見せるようになっていた。
親子の容姿が似ていないのは、アスカルが独身の父ペスカドの養子だからである。
「お前が思っているよりも、執事の仕事は辛いぞ?」
ジロリと脅すようににらむ父ペスカドは、本音ではアスカルを心配し、伯爵邸で働くことに反対していた。
「そんなににらまなくても、分かっているからお父さん!」
<だってこの村を離れて、知らない土地へ嫁ぐなんて僕には考えられないし… だから一生結婚できなくても、僕はお父さんとここで働きたいよ>
「まぁいいさ… お前はまだ若いから、しばらくの間、使用人として働く経験を積んでからでも、嫁ぐのに遅くは無いだろう…」
父はため息をつき、アスカルの肩をトンッ… トンッ… とたたいた。
「本当に大丈夫だよ、お父さん! こう見えて僕は神官様に礼儀作法は、しっかり教わっているしね!」
心配性の父に、アスカルは無邪気に笑った。
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