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23話 ラーヤの気持ち

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<僕にとって… クバラ様は慣れない後宮で暮らすための、命綱いのちづなのような人なんだ… 会えないと不安で、寂しくて… それにすごくむなしかった!>

 毎日、毎日… 後宮で、ずっとラーヤは夜伽よとぎに呼ばれるのを待っていた。
 
 皇帝に会いたいからではなくて、クバラに会いたくて…

<だって第4皇妃が、“使い捨ての皇妃” …と呼ばれるのは、僕は皇帝陛下にとって、あれば楽しめるけれど… 無くても別に困らない… その程度の価値しか無い、ただの玩具おもちゃという意味だから… 陛下に飽きられれば捨てて、新しい玩具に買い替えれば良い、僕はそんな存在だと知っているし… べつに陛下に、捨てられても、実家の伯爵家に害が無ければ、僕はかまわないけど…>


 自分は皇妃だから、“皇帝陛下を愛さなければ!” …それが頭の中心にあって、ラーヤは何度もクバラに“愛している” と告白されても… 皇帝の皇妃のラーヤには、始めからクバラの愛に答えられる立場ではないと、自分の心から切り離して、愛の告白を聞き流していた。

 クバラの愛に答えれば、皇帝反逆罪という重い罪を犯すことになる。

<―――それは、すごく恐ろしい罪になるから… 僕だけの問題ではなくなり、実家の伯爵家に迷惑をかけ、クバラ様まで僕と同罪になってしまう! 僕はクバラ様のように、上手に皇帝陛下や、世話をしてくれる女官たちに気持ちを隠す自信が無いから… クバラ様を愛せないし、考えられない!>

 ラーヤは思うだけで、罪を犯しているような気がして… 何年後になるかわからないけれど… 皇妃(皇帝の玩具)を引退してからでないと、何も考えられなかった。

 だが、その前に… クバラがガラム王国の王女と婚約すると、ラーヤはスマンカ皇女から聞き… 

<僕を“愛している” …と言ってくれた、クバラ様の心は、僕から離れてしまうのだと思ったら、苦しくて… 辛くて… 耐えられなくなった>

 ラーヤが頼りにしていた、命綱が無くなるのだ。




 しっとりと汗で濡れた、クバラの頬をなで… 雄々しい顎から首筋、たくましい胸のドクンッ… ドクンッ… ドクンッ… 拍動はくどうするクバラの心臓の力強さを感じ、ラーヤは涙がこぼれた。

<これで… クバラ様に抱かれるのは、きっと最後なんだ…?>


「ラーヤ… 辛いか? 痛いか? 少し乱暴にしてしまったから… すまない! ずっと優しく抱きたいと思っていたのに、ラーヤを前にしたら、我慢出来なくなってしまったから…」
 あわててクバラは謝り、ラーヤがこぼした涙を親指でぬぐい… 性器をひき抜こうと、腰を離そうとするが… ラーヤは離れたくないと、しがみついた。

「ラーヤ…?!」

「まだ、嫌です… もう少しこのままが良い…」
 困った顔でクバラはラーヤの背中に腕を回しコロリと転がり… ソファの上でクバラはあお向けになり、身体を繋げたままラーヤを胸の上に乗せた。


 頬と耳を広い胸にくっつけ、クバラの心臓の音を聞きながら… ラーヤはぽつぽつと、自分の気持ちをはき出した。 

「スマンカ様の婚姻を見届けに、ムンギリム大公国へ行った後… ガラム王国へ行って、王女様と婚約するのでしょう? スマンカ様に聞きました…」

「ああ、それで私に会いに来てくれたのか?」

「だって… ずっと夜伽に呼ばれなかったから…」
 少しクバラを責めるような、すねた口調になり… そんな気配を感じ取ったクバラは、ラーヤの背中を大きなてのひらでなでた。

「私の方が、忙しくなってしまったから… それにしても… なんか昼間、ラーヤに会うのは少し照れるなぁ…? ずっと薄暗い部屋で会っていたから… でも、会いに来てくれて嬉しかったよ!」

「皇妃の僕が、個人的にあなたと会うのは、いけない気がしていたのです… 皇帝の代理で、僕を夜伽で抱いているあなたと会えば、誰かが変な疑いを持つのではないかと…」

「まぁ… 実際に私はラーヤを愛しているしね」

「僕もクバラ様を、愛しています」

「・・・っ?!!」


 ラーヤの下の大きな身体が、ビクッ…! と揺れ、耳に当てた胸から聞こえるクバラの心臓の音が激しくなった。






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