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6話 取り決め
しおりを挟む翌朝、朝食を並べながら、明穂がネクタイを締める英俊に見惚れていると、不意に目が合い、ニヤリと笑われ、意味も無く真っ赤に頬が染まり…
「こうやってると、新婚夫婦みたいだな… そう思わないか? 明穂」
「えええ~とっ… 朝食の用意が出来ましたわよ、ア・ナ・タ♡」
<何て罪作りな人だ!!>
ふざけたフリをする明穂に、英俊はクックックと笑いご満悦の様子だ。
「朝から豪華だな… 明穂は料理するの好きか? 昔は嫌々やってると思っていたけど」
食卓に着き英俊は、箸を持ち感嘆の声を上げる。
「嫌いではないよ」
元カレの為に"花嫁修業の一環で、ネットで料理をみっちり勉強したのだ。
<恋人を思いながら努力するのは楽しかったし… 英さんの為なら尚更だ!>
フワフワニヤニヤと、幸せな気分に浸る明穂を、英俊はモリモリと朝食を口に運びながら見つめ…
「恋人の部屋に戻るくらいなら・・・ ココに居ろよ!」
鮮やかな黄色のたくあんを箸で取り、ポリポリと音を立て齧りながら、素っ気なくアキを引き留める英俊。
「助かるよ英さん、2,3日ぐらい泊めてもらえると、ありがたいかも」
<親切過ぎない? 英さん・・・ 相変わらず面倒見が良いなぁ…>
嬉しくて微笑む明穂。
「・・・違う、お前が落ち着くまでずっとだよ!」
サッと味噌汁のお椀を取り、英俊は説得の言葉を口にしてから、ズズッと汁を飲む。
「でも・・・ 僕が居ると英さんは邪魔でしょう? 彼女とか怒らない?」
<きっと彼女いるよね?>
白いご飯を八分目まで盛った茶碗を手に持ったまま、明穂は食べずに英俊の話を聞く。
「女作る暇なんて無いさ! 仕事が忙し過ぎて、去年引っ越した時の荷物だって、まだ片付けずにそのままだし・・・」
山盛りに持った、大ぶりの茶碗を片手に、ご飯をモグモグしながら、英俊は渋い顔で、部屋の隅に積んである段ボールを睨む。
「そんなに忙しいの?! わあっ~、大変だね・・・」
<え? 彼女いないの? 意外!?>
思わず顔がニヤける。
自分のご飯茶碗をテーブルに置きくと、空になったご飯茶碗を英俊から受け取り、台所へ行き、明穂は炊飯器からご飯を盛る。
「・・・家賃はタダ! 飯代はオレ持ちで家事だけ頼むよ、どうだ明穂?!」
顔の前で英俊は合掌し、明穂に懇願する。
「・・・・・・」
<スゴク嬉しいけど・・・ 本当に良いのかな?>
食卓に戻り、英俊にご飯大盛りの茶碗を手渡す明穂。
「頼むよ明穂! 今、メチャクチャ忙しくて・・・ 死にそうなんだ! オレはお前のメシに惚れた!!」
肉じゃがの、ニンジンを頬張り明穂が手渡したご飯を、嬉しそうにモグモグと食べる英俊。
「本当に良いの? 何年も疎遠だった、元カノの弟だよ? 悪いコトするかもよ?」
<英さんの裸をコッソリ覗き見るとか? ・・・盗撮してずりネタにするとか?>
「あの時は悪かった・・・ オレも大人げなかったよ、薫と別てスグに慕ってくれたお前を切ったりして」
「ソレは良いんだ、姉ちゃんに浮気されて、英さんのが辛かったと思うし・・・」
食卓に着きご飯茶碗を持つが、俯いたまま、まだ一口も食べていない明穂。
「なぁ明穂・・・ "男同士仲良くやろうぜ"」
明穂は顔を上げ、英俊を見る。
『学校で虐められているのか? 秘密にするから話せよ明穂、男同士仲良くやろうぜ!』
"男同士仲良くやろうぜ"は英俊と、明穂ダケの合言葉だった。
懐かしさで、明穂の胸がキュッと鳴る。
男にフラれるたびに、スマホの画像を見ながらその言葉を思い出し・・・ 何度、自分を慰めたコトか。
「・・・甘えさせてもらおうかなぁ?」
<あの頃が恋しい・・・ 弟のような純粋さで、英さんを慕い、頼り、可愛がられていた時間が>
「助かる!!」
英俊は破顔一笑し、食べ終わった茶碗とみそ汁のお椀を重ね箸を揃えると、立ち上がり明穂に握手の手を伸ばす。
苦笑しながら明穂は、大きな英俊の手を取り、力強く握手する。
亀ノ島建設のオフィスで、机に積み上げられたファイルを開きながら、英俊はスマホを耳に当てニヤリと笑う。
「ええ、大丈夫ですよ、明穂のコトは僕に任せてください! ・・・それよりも中田社長、昨日の件を忘れないで下さいよ?!」
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