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36話 王立医療院
しおりを挟む目を閉じたままフロルが微睡んでいると、ディアマンテが唇に軽いキスを落とす。
「フロル… そろそろ起きる時間だ」
「はい…」
気持ち良くてフロルが目を閉じたまま微笑むと、ディアマンテはもう一度キスを落とす。
フロルはキスに応え、室内にチュッ…ッ‥と音を響かせディアマンテの唇を吸う。
もっとキスをして欲しいのになぜかディアマンテの唇は離れて行ってしまう。
目を開くと、上から覗き込んだディアマンテの美しい金の瞳の目尻が、困ったように下がる。
「旦那様?」
「もう先生が来ているよ」
「は?」
ディアマンテの視線を追って室内を見回すと、ソコにはズラリと…
「……っ!!!!」
口を開けたまま真っ赤になるフロル。
王立医療院にフロルが運ばれて1月半、ネ―ヴィ医師の見立て通り一時は命の危機にさらされ、意識不明の状態が数日続き、ディアマンテやクリステルを死ぬほど心配させた。
意識不明の状態からフロルが目覚めた時、ディアマンテとクリステルの方がやせ細り頬がこけ、ずっと具合が悪そうに見えた。
母アメジスタが亡くなって以来、フロルは本当の家族が出来たのだと実感した。
「小さい男だね公爵は! 何もキスで起こさなくても良いじゃないか!!
医療院の人間がみんなアルファだから牽制しているんだよフロル、ガキっぽいね!!」
助手の医師2人を従えた、可笑しそうに笑う40代ぐらいのアルファ美女はオメガホルモンの専門家で、ネ―ヴィ医師の先輩だ。
「泣く子も黙る第二騎士団の"黒ダイヤ" を小さい男扱いできるのはフェーブリ医師ぐらいだよ」
ニヤニヤ笑うラーゴ王子。
暇だからとなぜか毎日のようにフロルに会いに来るが、本当は仕事をサボりたくて来ている。
王立医療院から第二騎士団本部は、目と鼻の先にあるのだ。
「私も初めて会いました、お兄様を子供扱いする人…」
クリステルが瞳に♡を浮かべ、ウットリとフェーブリ医師を見つめる。
「仕方ないですよ先輩、公爵と奥方はまだ新婚なのですから」
一応助け舟を出す、ネ―ヴィ医師。
「奥様お背中にクッションを当てましょう」
キビキビと身の回りの世話をする、フロルの従者シューヴァ。
フロルの病室にはディアマンテ以外7人もいたのだ。
「さあ退院前に最後の診察を始めるからみんな出て行きな! …ああそうだ! 公爵、ついでに言うけど、交尾は3日に1度にしなよ」
フロル以外の全員がザっとディアマンテを見る。
「2日に1度ではダメなのか? 前はそうしていた」
サラリと答えるディアマンテに顔を赤くするクリステルとシューヴァ。
「まだダメだよ、あと2ヶ月は我慢しな! 体格差を考えてみなよ、ソレと避妊も厳守、そっちは後… 半年ぐらいだね、定期的に私のところで検診して一緒に考えよう」
「あ… あの…」
フロルがそろそろと、質問があると手を上げる。
「何だいフロル?」
フロルには妙に優し気なフェーブリ医師。
「こうび…とは何ですか?」
ぽや~んとした顔で聞くフロル。
フェーブリ医師は一瞬言葉を失い…
「フロルはまだ知らなくていいコトだよぉぉぉ―――っ!!!」
ガバッ… と抱きしめる。
「だあぁぁぁ――――――っ!! 私のフロルから離れろ!!!」
真赤な顔でフェーブリ医師をフロルからべりっと剥し、怒り狂うディアマンテ。
大人げなく剣の柄に手を掛けながら。
「何だよ! 細やかな冗談じゃないか!! 本当に小さい男だな」
フェーブリ医師はムッとする。
その場に居たフロル以外の全員が「絶対本気だった」 と頷く。
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