32 / 90
31話 覚悟
しおりを挟むフルータに項を執拗に噛まれ、フロルは激痛で再び気を失いそうになっていた。
「フ…ルー…タ…止め…て…痛‥い…」
<喉が痛い、声が掠れて上手く話せない… >
別邸から攫われた時、フロルは意識を奪う薬をたっぷり含ませた布を口と鼻に押し当てられ、抵抗したはずみで深く吸い込んでしまったからだ。
フルータは不意に項を噛むのを止め、フロルの下衣を脱がす。
「フロル… 兄さん…僕たちは運命の番だよ…!兄さん」
<ああ… このままではフルータに奪われて汚されてしまう!! 私は旦那様のモノなのに!! …嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!!>
『フロル信じてくれ!! 君も覚悟を決めろ! …私の本能が告げた通り、君を運命の番だと決めたから、君以外の誰とも結婚しない!』
『でも旦那様! …運命の番だと言う人が居ると結婚する前に…』
『子爵家で君に会った時、運命の番とはどういうものか初めて知った、君は何も感じなかったか? 私に本能的な…何か大切なものを』
<私は何年も前から旦那様にずっと感じていた…本能的な"運命" を…>
『ソレでも君が離婚を望むなら… 私はクリステルの夫か、従兄弟に公爵位を譲り、一生独身でいるつもりだ』
『旦那様!!』
『フロル、分からないか? 私は君のモノなのだよ』
<美しく清んだ金の瞳が、旦那様の言葉に偽りは無いと証明していた>
『私も旦那様のモノです… 一生お側にいます』
<そして旦那様は私の項に、甘い痛みと共に番の証、赤い噛み痕をくれた!! 愛しくて誇らしい痕を!!>
運命の番になった2人は何度も何度も愛し合った、儀式のような情交を終えたのは、ほんの半日前…
今朝だった。
<ダメだ! ダメだ! ココで奪われたら、私は旦那様との誓いを破るコトになる!! 何としてもフルータを懐柔しなければ!!>
「フ…フルー…タ…怖…い…怖‥い…怖‥い…優し‥く‥して‥」
「大丈夫だよフロル!! 優しくするから!!」
「でも痛い‥のは‥嫌… 手が‥痛いのも‥嫌… 痛いコト‥したら‥フルータのコト嫌い!!」
「ああ、ゴメンよ! でも手の縄を解いたら逃げようとするだろう?」
フロルは泣きながら弟に訴えた、 涙は痛みと恐怖で勝手に溢れた。
「逃げ‥ない… お父様に‥フルー‥タと…仲良く‥してダメと命令‥された… 本当は‥フルータ‥大好き‥なのに… お父様の…命令…嫌いなフリ‥してた… ゴメンね… 私も… 辛かった」
「知らなかった!! 知らなかったよ!! そうか!だからフロルを公爵に売ったのか!! 僕たちを引き裂くために!!」
<ごめんなさい… 旦那様… ごめんなさい…! ごめんなさい…!>
嘘でも他の誰かを"好きだ"と言うのが、フロルには苦痛だった。
フロルの眼から溢れた涙が止まらなくなり、嗚咽が込み上げシーツに顔を埋める。
「うう…っ… ふうう…っ…うう…っ…うう…くっうう…っ…」
「泣かないでフロル!待ってよ、すぐに縄を切るから!!」
足のぐらついた粗末なテーブルから、フルータはナイフを取りフロルの腕を縛る縄を切る。
4
お気に入りに追加
1,432
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた
いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲
捨てられたΩの末路は悲惨だ。
Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。
僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。
いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる