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10話 抑制剤 ディアマンテside

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 シャーヴィが手配した医者は、若いが最新の医学知識を常に意識し、学び続ける勤勉な医者だった。


「ソレでネ―ヴィ医師せんせい、なぜフロルは失神したまま、目覚めないのですか?!」

「奥様は栄養失調により内蔵機能が著しく低下しいるうえに、発情時に伴う大量のエネルギ―消費に弱った身体が対応しきれず、失神に至ったと思われます」


 ディアマンテは、ベッドで眠るフロルの小さな手を取ると…

 指先を柔らかく揉んだり、小さな桜貝のような爪を太い親指の腹で撫でたり…
 掌に唇を寄せてキスしたりしながら…

 イライラと気を揉み、医師の診察結果を聞く。


「ソレは… 栄養価の高い食事を摂る事で、治ると言うコトですか?」

 血の気の失せた青白い顔の、フロルから目を放さず、ディアマンテが医師に尋ねると…


「はい、半分は…」


「半分とは?」

 少し歯切れの悪い、返答に顔を上げ、ネ―ヴィ医師の顔を、注意深く見つめた。


「先ほど… 奥様のお世話係の方に、奥様の使うオメガ用の抑制剤を見せて頂いて… 正直驚きました」

 ネ―ヴィ医師は眉間に皺を寄せ、ベッドで眠るフロルを見下ろし、慎重に説明を始た。



「何がですか?!」

 嫌な予感がして、ディアマンテの眉間にも深い皺が寄る。



「この抑制剤は… 副作用の強さを理由に、王立医療院が何年も前に認可を取り消したモノなのです、今は買うコト自体が罪になるほどです」


「何ですって?!」


 流石のディアマンテも驚愕する。



「発情の抑制力は、確かに強いですが、コレの副作用が、使えば使うほど、体内に薬の毒素を蓄積するというモノでして… 奥様はそのコトをご存知だったのでしょうか?」

 ネ―ヴィ医師は、犯罪の可能性を示唆し、ディアマンテの反応を窺いながら、慎重に言葉を選んで語った。


「フロルは… 今までずっと、毒を飲んでいたのですか?!」

 意識の無いフロルの小さな手を握りながら、ディアマンテは震えていた。



「はい、公爵… 一昔前、オメガの寿命が今より20年短かったのは、この抑制剤による腎臓への深刻なダメージが原因だと、最近の研究で解明されたコトなのです」


 全てをネ―ヴィ医師が語り終えると…

 バンッと椅子を蹴倒して、悪魔のような形相で、立ち上がるディアマンテに…

 ネ―ヴィ医師が、ビクリッと座ったまま跳ねる。



<自分が使える金など無いフロルが、高価な抑制剤を自分で買えるワケが無い!
薬を用意した人間が、毒だと知ってフロルに渡していたとしたら? 
…例えば父親が、フロルを殺す為に? 何故だ?!>



 激怒してギリギリと歯ぎしりするディアマンテに、医師が青ざめる。


「…公爵様?」

 ディアマンテの激情に、ネ―ヴィ医師はたじろぎ、急に暴れ出すのではないかと、怯えながら声を掛ける。


「先生のその医学知識を見込んで、私の相談役になってくれるだろうか? どうしても断罪したい男がいるのです!!」

 <血を分けた実の子を、ギャンブルの借金返済に使うだけでも、ゲスな豚野郎だが毒殺しようとしていたなんて!>



「ソレは構いませんが… 奥様の… この薬の使用状況を、王立医療院へ報告しなければならないのですが?」

 ネ―ヴィ医師はおずおずと進言すると…


「ぜひとも、そうしてくれ! 妻も喜んで誰がその薬を用意したか、話すでしょうから!」

<ベント子爵は、なぜそこまでフロルを追い詰めるのだろうか? 違法薬物を使ってまで?>





 ディマンテは青白い顔で、昏々と眠り続けるフロルの髪を一房取り…

 キスをする。





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