11 / 90
10話 抑制剤 ディアマンテside
しおりを挟むシャーヴィが手配した医者は、若いが最新の医学知識を常に意識し、学び続ける勤勉な医者だった。
「ソレでネ―ヴィ医師、なぜフロルは失神したまま、目覚めないのですか?!」
「奥様は栄養失調により内蔵機能が著しく低下しいるうえに、発情時に伴う大量のエネルギ―消費に弱った身体が対応しきれず、失神に至ったと思われます」
ディアマンテは、ベッドで眠るフロルの小さな手を取ると…
指先を柔らかく揉んだり、小さな桜貝のような爪を太い親指の腹で撫でたり…
掌に唇を寄せてキスしたりしながら…
イライラと気を揉み、医師の診察結果を聞く。
「ソレは… 栄養価の高い食事を摂る事で、治ると言うコトですか?」
血の気の失せた青白い顔の、フロルから目を放さず、ディアマンテが医師に尋ねると…
「はい、半分は…」
「半分とは?」
少し歯切れの悪い、返答に顔を上げ、ネ―ヴィ医師の顔を、注意深く見つめた。
「先ほど… 奥様のお世話係の方に、奥様の使うオメガ用の抑制剤を見せて頂いて… 正直驚きました」
ネ―ヴィ医師は眉間に皺を寄せ、ベッドで眠るフロルを見下ろし、慎重に説明を始た。
「何がですか?!」
嫌な予感がして、ディアマンテの眉間にも深い皺が寄る。
「この抑制剤は… 副作用の強さを理由に、王立医療院が何年も前に認可を取り消したモノなのです、今は買うコト自体が罪になるほどです」
「何ですって?!」
流石のディアマンテも驚愕する。
「発情の抑制力は、確かに強いですが、コレの副作用が、使えば使うほど、体内に薬の毒素を蓄積するというモノでして… 奥様はそのコトをご存知だったのでしょうか?」
ネ―ヴィ医師は、犯罪の可能性を示唆し、ディアマンテの反応を窺いながら、慎重に言葉を選んで語った。
「フロルは… 今までずっと、毒を飲んでいたのですか?!」
意識の無いフロルの小さな手を握りながら、ディアマンテは震えていた。
「はい、公爵… 一昔前、オメガの寿命が今より20年短かったのは、この抑制剤による腎臓への深刻なダメージが原因だと、最近の研究で解明されたコトなのです」
全てをネ―ヴィ医師が語り終えると…
バンッと椅子を蹴倒して、悪魔のような形相で、立ち上がるディアマンテに…
ネ―ヴィ医師が、ビクリッと座ったまま跳ねる。
<自分が使える金など無いフロルが、高価な抑制剤を自分で買えるワケが無い!
薬を用意した人間が、毒だと知ってフロルに渡していたとしたら?
…例えば父親が、フロルを殺す為に? 何故だ?!>
激怒してギリギリと歯ぎしりするディアマンテに、医師が青ざめる。
「…公爵様?」
ディアマンテの激情に、ネ―ヴィ医師はたじろぎ、急に暴れ出すのではないかと、怯えながら声を掛ける。
「先生のその医学知識を見込んで、私の相談役になってくれるだろうか? どうしても断罪したい男がいるのです!!」
<血を分けた実の子を、ギャンブルの借金返済に使うだけでも、ゲスな豚野郎だが毒殺しようとしていたなんて!>
「ソレは構いませんが… 奥様の… この薬の使用状況を、王立医療院へ報告しなければならないのですが?」
ネ―ヴィ医師はおずおずと進言すると…
「ぜひとも、そうしてくれ! 妻も喜んで誰がその薬を用意したか、話すでしょうから!」
<ベント子爵は、なぜそこまでフロルを追い詰めるのだろうか? 違法薬物を使ってまで?>
ディマンテは青白い顔で、昏々と眠り続けるフロルの髪を一房取り…
キスをする。
12
お気に入りに追加
1,432
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた
いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲
捨てられたΩの末路は悲惨だ。
Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。
僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。
いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる