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10話 冷たい中庭 アニマシオンside
しおりを挟むひんやりと冷たくて暗い、地下にある秘儀の間が、一瞬で明るく暖かい王宮の中庭へと変わった。
「これはすごい! 映写魔法だって?! 驚いたな、ここまで大規模なものは見たことがない?!」
見た目と触れた感触がまるで違う、石床に片膝をつき… アニマシオンは感嘆の声をあげた。
「僕はどこにあるのか、わかりませんが… 中庭のどこかに魔法陣が刻み込まれていて、このように映写魔法をこの広間で、発動させることが出来るのだそうです」
ニコニコと微笑み、カジェは自慢げに語る。
「なるほど… ふむふむ…」
「他にもですねぇ……」
カジェは映写魔法を発動させた、魔法文字の並びにある、他の一行に触れると… 中庭の景色が、王宮内の舞踏室へと切り替わる。
「おお… これは舞踏室か?! なるほど、舞踏室にも映写魔法のための魔法陣が刻まれているのだな?」
「はい、他にもまだありますよ?」
舞踏室の景色が、玉座の間へと切り替わり… 国王が地方から出て来た臣下たちと謁見していた。
国王が忙しそうに公務をこなす姿を見ているうちに、アニマシオンは自分も公務で、大事な約束をしていたことを思い出しあわてだす。
「……うわあっ!! しまった!! 今は昼過ぎか?! いや… まだ、父上が謁見の最中なら… まだ、昼より前か?! 早く行かないと… 約束に間に合わない!」
これはマズイぞ?! 今日は隣国の大使に成人の儀式を終えた報告をしに、面会する約束をしていたのだ! まったく父上も… 昨夜儀式を行うなら、前もってそう言って下されば良いのに!
「殿下… 地上に戻られるのですか?」
「カジェ、継承の儀式というのは… 今すぐにでも、再開しなければ、いけないものなのか? 成人の儀式を終えた今が、一番公務が忙しい時なんだ!」
国王に薬酒で媚薬を盛られ、前夜は何も知らされないまま、儀式を行ったアニマシオンは… 食事中にカジェから継承の儀式は、数回に分けて行うもので、まだやらなければならない、項目がいくつもあるのだと聞いていた。
「あ、いいえ… ピントゥラ様がすでにここを去られていますし… あまり遅くなると、殿下のためにならないので、出来れば続けて行う方が良いのですが… でも、早ければ良いという訳ではありません… 継承の儀式を成功させることの方が重要なので、殿下が公務が気になって、儀式に集中出来ないのなら、時間を置いた方が良いと思います」
「では、儀式の続きはいつ行えば良い?」
「ええっと… それは… 殿下の都合次第です」
「私の都合?」
「はい、未来視の魔法が殿下にいつ必要になるか、僕にはわかりません… ですから、殿下が必要だと思う時にいつでも未来視が出来るように、儀式を終わらせる必要があります」
「ああ… そう言うことか! つまり、今すぐ未来視が私に必要でなければ、数日後でも、数ヶ月後でも構わないと言うことだな?」
助かった! なら、そうしよう! まだ王太子の身分の私には、それほど未来視は必要ないからな… 正直、どれぐらい必要になるのか、父上にたずねてみないと、分からないし…… とにかく今は、公務の方が忙しいから!
「はい、殿下… ですが未来視が必要になることは、突然やって来るそうですから」
アニマシオンの言葉を聞いて、少し前までニコニコと笑っていた、カジェから笑みが消え、不安そうな表情に変わる。
「なるほど、ふむふむ… わかった! では、今日は忙しいから、次に回しても良いのだな?」
「……はい、殿下」
「よし、では私は地上に戻ることにする」
「………はい、殿下」
アニマシオンの考えに、カジェは不服そうな顔をしたが、従順に受け入れた。
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