傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

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86話 その後2 ーENDー

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 良く晴れた穏やかな春の日。

 ジェレンチ公爵家が所有する、大戦前に隣国との国境を守るために作られたペザート城で…
 若い二人の結婚式が行われた。


 神を背にしつややかな漆黒の騎士服に身を包み、剣を腰に下げた剣聖オウロ公爵が威厳いげんに満ちた声で2人に問う。


「共に歩むことを誓うか?」


「誓います―――っ!!」
「誓います―――っ!!」


 元気の良い若々しい二人の声が、石造りの礼拝堂に響く。


 夫、オエスチ侯爵の後継者、アルファのジェーマは王立第一騎士団の礼装を身に着け、凛々りりしい姿で新妻に微笑み掛けた。

 妻、ジェレンチ公爵の養子でトルセールの長男、オメガのセグーロはきらびやかな近衛騎士団の礼装姿だ。

 新郎新婦はともに、騎士の礼服を身にまとい、司祭を務めた剣聖同様、腰にそれぞれ剣を下げていた。

 2人は瞳を輝かせて誓いのキスを交わす。



「いくつか結婚式に参列したけれど、やっぱり剣聖様の結婚式は一味ちがうねぇ~」
 ニコニコと微笑みながらアディは、隣に立つ騎士の礼装姿の夫にもたれた。

「ふふふっ… その辺にいる、年を重ねただけで威張いばり散らす、司祭とは格が違うさ! 何しろ腕と実績を認められて剣聖になった人だからな」
 
 デスチーノは同じ騎士として、誇らしげに剣聖を褒めると…


「おやおや、それならうちの旦那様だって、司祭ぐらい出来そうなほどえらい人だけれどね?」
 揶揄からかうようにパチンッ… とウインクをしてアディがデスチーノを見上げた。 

 結婚式にはデスチーノが救い出した被害者たちの姿もあり… その中にはデスチーノの元部下と結婚して、家庭を築いている者もいる。


 現在デスチーノは、剣の指南役として求められれば各騎士団を回ることもあるが…
 普段は王太子の側近として大臣職に就いているため、職場は王宮内の行政府にあり、以前にも増して多忙を極めていた。


「お父様、お母様!」
 息子のグランジが、デスチーノ譲りのスミレ色の瞳を曇らせて、金糸のような髪を揺らしながら、慌てて走り寄って来る。

 まだ子供ではあるが、トルセールの話では…
 太く長い手足が子供の頃のデスチーノにそっくりらしく、将来グランジはアルファになるだろうと、ジェレンチ公爵夫妻は確信していた。


「どうしたの、グランジ?」
 アディが慌てる息子にたずねると…

「アヴェニーダが…」
 困った顔でグランジが指を差す。

「んん?」
 アディとデスチーノはグランジが指差した先に視線を移して見ると…
 ガーデンパーティーに使う、料理を載せた長テーブルの下で、うつ伏せで転がって隠れている子供がいる。

 幼い頃のアディに良く似た容姿の、薄茶の髪に琥珀こはく色の瞳をした悪戯いたずらっ子の次男アヴェニーダだ。

 基本的に貴族社会では、子供はパーティーに参加させないのが常識であり… この日ばかりは、公爵家の子供たちも城内の子供部屋に居た。


「やはり、アヴェニーダは我慢出来なかったのだな」
 デスチーノは困った奴だと笑いながら、妻にそっくりの次男を溺愛していたため、面倒な悪戯を数々されても、甘い顔で笑って許してしまうのだ。


「ごめんなさい、僕は止めたけど…」

「分かっているよグランジ、あなたはいつも良いお兄さんだからね」
 しょんぼりと落ち込むグランジを、アディはギュッ… と抱きしめて慰める。

「うん…」

「ほら見て、グランジ! カンタールが捕まえてくれたから、もう大丈夫だよ?」


 悪戯っ子の気持ちは、悪戯っ子が一番良く理解できるらしく…
 両親の言うことは聞かなくても、アヴェニーダは悪戯っ子カンタールの言うことは良く聞くのだ。


 その近くには、カンタールの妹コールと、身重のトルセールが再婚した夫、第一騎士団の団長(デスチーノの親友で、デスチーノが団長時代に副団長をしていた騎士)と立っていた。


 2年ほど前にトルセールは、オメガ研究の第一人者であるフェーブリ医師の治療を受け、時間はかかったが元夫ブラッソとの"つがいちぎり"を解くことに成功している。

 ちなみに元夫ブラッソに復縁を迫られ、トルセールは付きまとわれて困っていた時に、現在の夫がブラッソをたたきのめして追い払った。

 その時の縁が、結婚へと繋がったのだ。






 夜通し続くダンスパーティーの会場を、アディはこっそりと抜け出す。
 



 ジェレンチ公爵の寝室に、アディが忍び込むと… 来るのを待っていたかのように、公爵が背後からアディを捕まえ、細いうなじに噛みつく。
  
「んんっ…!」

「おやおやアデレッソス! アルファの寝室に忍び込むなんて、はしたないぞ? もしかして君は、私とみだらな思い出作りをしたいのか?」
 デスチーノは唇をうなじから離して、アディの耳元で囁いた。

「ふふふっ… 憧れのジェレンチ公爵様を毎日誘惑して、僕は熱くて甘い思い出が毎日欲しいのです」
 結婚し出産しても、可憐かれんな可愛らしさは、アディから少しも失われることは無かった。

「子種はもういらない?」
 笑みを深くしてデスチーノがたずねると… アディはくるりと身体を回し、デスチーノにしがみ付き、耳を甘噛みしながらねだった。


「あなたの子種なら、お腹いっぱいもらっても足りないから!」

「可愛いアディ! あふれるほど注いでやる!」

「大好き、デスチーノ!!」



 結婚前の恋人同士のように、いつまで経っても熱々の2人である。





 エントラーダ伯爵邸で、アディがデスチーノの寝室に忍び込んだ時から始まった、2人の熱烈な思い出作りは、これからも続く…






  ー  END  ー







  ○  ○  あとがき  ○  ○

 最後まで読んで下さり、ありがとうございました(^_^)

 短編の予定が私の力不足で、倍の長さになってしまい、本当にすみません!
(また、ヤッてしまった… 反省しています)

 このお話も、「その後~」まで書いたので、番外編などはありませんので、どうかご安心を(^_-)-☆


 またどこかで、お会い出来れば幸いです☆彡






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今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
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みんなの感想(40件)

nico
2022.11.29 nico
ネタバレ含む
金剛@キット
2022.11.29 金剛@キット

nico様
いつも楽しいコメントありがとうございました!
何度も励まされ、お話を読んでもらえると思うと、更新するのがとても楽しみでした(^_^)

小柄なアディですが、元気そうなので、もう1人ぐらい生まれたかも知れませんね💗
逆にデスチーノが心配して、止めたりして^^; 

無事にハッピーエンドで終わり、ホッとしております💛
最後までお付き合い下さり感謝感激です!
また、ドコかでお会いできれば幸いです☆彡

解除
nico
2022.11.28 nico
ネタバレ含む
金剛@キット
2022.11.28 金剛@キット

nico様
コメントありがとうございます!
1年遅れですが、公爵夫妻の新婚熱々生活が始まるようです💗
デスチーノのデレデレ爆発は確実でしょう(*´ω`*)
ココまで読んで下さり、ありがとうございます☆彡
フィナーレも間近ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです💛

解除
nico
2022.11.27 nico
ネタバレ含む
金剛@キット
2022.11.27 金剛@キット

nico様
コメントありがとうございます!
アディの日頃の善い行いが、出産に反映されたようです(^_^)
デスチーノが活発に動き回るアディの姿を見ていたら、逆に過保護にし過ぎて身体が弱くなり、もっと難産になっていたかも?
何が、どう転ぶかは、後になってみないとわからないモノですね(^-^;
ココまで読んで下さり、ありがとうございます☆彡

解除

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