85 / 87
84話 コレから
しおりを挟む「ああ… 良かったよぉ… デスチーノ… 生きて会えた!」
甘えるようにアディはデスチーノにしがみ付くが…
<ああ、いけない! 背中に大ケガをしていたんだ!>
広い背中に回したアディの掌が包帯に触れ、慌てて手を背中から腰へと下ろす。
そんな二人を見て静かにそっと立ち上がり、トルセールは微笑みながら、部屋を出て行く。
「長い間… 留守にして悪かった… アディが… 立派に家と…皆を守ってくれていると… トルセールやオエスチ侯爵に聞いた…」
発熱の影響で、デスチーノの声も酷く掠れていたが、言葉はしっかりしていた。
「デスチーノこそ… 被害者の人たちがみんな感謝していたよ? 本当にあなたはすごい人だね!」
<秘密裏に誘拐の被害者たちを救出しながらの、外国の生活はデスチーノにとっても、本当に過酷だったのだろうね? 手紙では少しも僕に弱音を吐かなかったけれど… こんなに痩せてしまって!>
背中の大きな傷以外にも、見覚えの無い傷跡がたくさん増えていて… 再びアディは涙ぐんだ。
「アディ… これで終わりだから、私は王太子の命令で救出の任務から外れることになる」
ぐすぐすと涙ぐむ、アディの額にキスを落としながら… デスチーノは今後のことについて語った。
「え?!」
自分の願望からの聞き間違いか? とアディは涙が引っ込み、デスチーノをまじまじと見つめた。
「王太子殿下が、これ以上私に好き勝手をやらせると、どこかで命を落としそうだと… 私をまだ使いたいから、簡単に手放したくないのさ」
「ああ…!」
<そう言えば… 前にオエスチ侯爵が、そんなことを言っていたっけ?>
『有能で公爵位を持つデスチーノこそ、国の中心で王太子の右腕として国益のために働くのが当然なんだ… 他国で暗躍するような任務など、逆にありえないことだよ』
アディは黙りこんで… デスチーノの立ち位置について、これからジェレンチ公爵夫人として、知っておいた方が良いだろうと、オエスチ侯爵が丁寧に教えてくれたことを思い出していた。
<うん… そうだ、思いだした確か… 侯爵は…>
『だが… デスチーノのような、社会的地位の高い人物が動いたからこそ、王弟を動かし、他国での行動の自由を勝ち取れたのだ… 要するにデスチーノが被害者たちをを救い出すための道を作ったのさ!』
「被害者たちを、救い出す役目を、他の人に任せてもよくなったのですね?」
アディがたずねると… 質問の言葉にアディの成長ぶりを感じ取り、デスチーノは少し驚いた顔をしたが、ニコリと笑いうなずいた。
「そうだ! それにこれ以上、裏でばかり働いていると表に立てなくなる… 何せ、私は他国の有力貴族から、人を盗み出していたのだから、いつか素性がばれて命を狙われるようになるかもしれないし…」
出来れば全てを、自分の手で終わらせたかったが… 大ケガを負った今が、デスチーノにとって良い引き際だった。
デスチーノは今後、後方からの支援に徹することになる。
0
今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
お気に入りに追加
384
あなたにおすすめの小説
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
恋なし、風呂付き、2LDK
蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。
面接落ちたっぽい。
彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。
占い通りワーストワンな一日の終わり。
「恋人のフリをして欲しい」
と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。
「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。
英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。
[BL]王の独占、騎士の憂鬱
ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕
騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて…
王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる