傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

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73話 ドレスアップ

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 オエスチ侯爵家の晩餐会用に、トルセールが張り切って選んだアディの礼装は…
 デスチーノの瞳に合わせた、スミレ色のドレスコートとパンツ。

 袖とえりに繊細な外国産のレースをあしらった、淡い水色のブラウスには、アディの髪色に合わせた金糸の刺繍ししゅうが入り…
 アディの愛らしい顔に、高貴な気品を漂わせることに成功した。

「おおお~っ! こんなに素敵な服を着たの初めて!!」
 社交デビュー前にヴィードロとの婚約が決まり、本格的な社交シーズンには未だ、アディは参加したことが無かったのだ。

 そのためにアディは、あまり豪華な礼装は持っておらず…
 要するに、父親であるエントラーダ伯爵は、アディの服に出費するのを渋り、身内が開く夜会や茶会にしか出席させなかった。


「やっぱり良い色ね… このドレスコート! 真珠のような光沢がアディの肌に合っていて!」

「一生懸命、トルセールが選んでくれたからね!」

 3色あった微妙に違うスミレ色の生地を、何度も、何度も、トルセールはアディの肌に当てて、色の相性を見て決めたのだ。

 とにかく、注文から仕立て上がるまでの時間が短過ぎて、どれを優先して仕立てるかが重要だった。


<あの時は正直、なんで似たような生地でそんなにトルセールが悩むのかが、僕には全く理解できなかったけれど… こうして着て見るとわかるような? 気がするよ! 本当にごめんね!! あの時はすごく面倒臭い! …と思ったりして!!>

 口に出すと、トルセールに怒られそうなので、心の中でアディは謝罪した。 
 

 公爵邸の隠し金庫から出してきた、ジェレンチ公爵夫人に代々受け継がれて来た、スミレ色に近い青みがかったアメジストがはめ込まれた、イヤリングとブローチのセットを出す。

 親指ほどの大きさで、シンプルにしずくの形にカットされたアメジストのイヤリングを、アディの小さな耳に下げて…
 ダイヤモンドと組み合わせた、卵ぐらいの大きさがあるアメジストのブローチは、首元を豪華に飾った。


 仕上げにスミレの花の香水を、身体に直接吹きかけるのではなく…
 トルセールはアディの頭の上に、シュッ… シュッ… と香水の霧を振り撒いて、霧の下をアディがくぐり身体全体にほんのり香る程度にして、ドレスアップを終わらせる。

「デスチーノはあまり強い香水は好きでは無いから… でも、こんなにオシャレをした時は、一緒に香水ぐらい付けないと、貴婦人たちにバカにされてしまうしね!」

 話しながら、ちょいちょいとトルセールはアディの襟を整え、微笑んだ。


「ふふふっ… 香水なんて… 付けたの初めて! 僕が持っているものは、お母様の形見だから、減っちゃうのが嫌で付けたコトがないんだよね~」

 胸いっぱい、スゥ~と香りを吸い込み、アディはうっとりと瞳を閉じた。





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今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
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