傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
74 / 87

73話 ドレスアップ

しおりを挟む
 オエスチ侯爵家の晩餐会用に、トルセールが張り切って選んだアディの礼装は…
 デスチーノの瞳に合わせた、スミレ色のドレスコートとパンツ。

 袖とえりに繊細な外国産のレースをあしらった、淡い水色のブラウスには、アディの髪色に合わせた金糸の刺繍ししゅうが入り…
 アディの愛らしい顔に、高貴な気品を漂わせることに成功した。

「おおお~っ! こんなに素敵な服を着たの初めて!!」
 社交デビュー前にヴィードロとの婚約が決まり、本格的な社交シーズンには未だ、アディは参加したことが無かったのだ。

 そのためにアディは、あまり豪華な礼装は持っておらず…
 要するに、父親であるエントラーダ伯爵は、アディの服に出費するのを渋り、身内が開く夜会や茶会にしか出席させなかった。


「やっぱり良い色ね… このドレスコート! 真珠のような光沢がアディの肌に合っていて!」

「一生懸命、トルセールが選んでくれたからね!」

 3色あった微妙に違うスミレ色の生地を、何度も、何度も、トルセールはアディの肌に当てて、色の相性を見て決めたのだ。

 とにかく、注文から仕立て上がるまでの時間が短過ぎて、どれを優先して仕立てるかが重要だった。


<あの時は正直、なんで似たような生地でそんなにトルセールが悩むのかが、僕には全く理解できなかったけれど… こうして着て見るとわかるような? 気がするよ! 本当にごめんね!! あの時はすごく面倒臭い! …と思ったりして!!>

 口に出すと、トルセールに怒られそうなので、心の中でアディは謝罪した。 
 

 公爵邸の隠し金庫から出してきた、ジェレンチ公爵夫人に代々受け継がれて来た、スミレ色に近い青みがかったアメジストがはめ込まれた、イヤリングとブローチのセットを出す。

 親指ほどの大きさで、シンプルにしずくの形にカットされたアメジストのイヤリングを、アディの小さな耳に下げて…
 ダイヤモンドと組み合わせた、卵ぐらいの大きさがあるアメジストのブローチは、首元を豪華に飾った。


 仕上げにスミレの花の香水を、身体に直接吹きかけるのではなく…
 トルセールはアディの頭の上に、シュッ… シュッ… と香水の霧を振り撒いて、霧の下をアディがくぐり身体全体にほんのり香る程度にして、ドレスアップを終わらせる。

「デスチーノはあまり強い香水は好きでは無いから… でも、こんなにオシャレをした時は、一緒に香水ぐらい付けないと、貴婦人たちにバカにされてしまうしね!」

 話しながら、ちょいちょいとトルセールはアディの襟を整え、微笑んだ。


「ふふふっ… 香水なんて… 付けたの初めて! 僕が持っているものは、お母様の形見だから、減っちゃうのが嫌で付けたコトがないんだよね~」

 胸いっぱい、スゥ~と香りを吸い込み、アディはうっとりと瞳を閉じた。





しおりを挟む
今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
感想 40

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

処理中です...