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72話 孤児院の天使たち
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いつも通り、朝食を自室のベッドで摂ったトルセールが、お昼前に家族用の居間に顔を出し…
午後からジェレンチ公爵家が援助している孤児院に行かないかと、アディは誘われた。
今夜はオエスチ侯爵家の晩餐会へ出席する予定だが、他家の令夫人たちのように…
身体を磨く時間。 念入りに化粧をする時間。 夜会に着るドレスを選ぶ時間。 髪を綺麗に整える時間、等々…
着飾るための準備の時間を、アディは何時間も必要としないため、トルセールの誘いを機嫌良く受け入れた。
(時間をかけても容姿は変わらないと、アディはオシャレに関して、拘らないようにしている)
修道院に隣接した孤児院を訪れると… わぁわぁと大騒ぎで、トルセールに纏わりつく小さな子供たちを、一人ずつ、元気だったか? と声をかけて抱きしめるトルセールの姿に、アディは亡くなった自分の母親の姿が重なり、感動を覚えた。
「あなたは本当に素晴らしい女性ですね!」
そんな平凡な言葉しか浮かばない自分が、恥かしかったけれど… アディはそうトルセールに、言わずにはいられなかった。
<これからはたくさん本を読んで、言葉の勉強をすることにしよう!!>
密かにアディは心に決める。
泣きわめく乳飲み子を抱いて、困り果てていた若い修道女から、赤ん坊を受け取り、トルセールは上手にあやしながら、照れた様子でアディに微笑んだ。
「ここに来て小さな子供たちの世話をしているとね、身体の調子がとても良くなるの」
奇声を発して走り回る、次男のカンタールを眺めながら、トルセールはアディに語った。
トルセールの3人の子供たちも、乳母と一緒に遊びに来ていて、孤児院の子供たちと転げ回って遊んでいる。
この日ばかりは、服が泥だらけになっても、誰にも怒られないから、大喜びだ。
「身体の調子? どこか… 悪いのですか?」
眉をひそめて心配そうにアディがたずねると…
「ほら、オメガの発情期がね…」
「あ…!」
「3人目のコールを産んだ後… あの人と、愛人のことで喧嘩になって… それ以来、私が発情期になっても、私を罰するために、あの人… 私を抱かなくなってね…」
元夫の話をする時、トルセールの顔はどうしても寂しそうになる。
「トルセール…」
「私も彼の言いなりになるのが嫌だから、意地を張って、ずっと折れずにいたの… コールに母乳をあげているうちは、それでも良かったけど、その時期が終ると、少しずつ発情期が辛くなってね」
「何も… 何も知らなくて、ごめんなさい!」
<長兄の意地の悪さを、僕も知っていたはずなのに、トルセールだけは、兄も例外的に優しくしていると思い込んでいたから>
「良いのよ! もう、終わったことだから… 私が言いたかったのはね、こういう手のかかる小さな子の世話をしているうちに、発情期が止まってしまったのよ」
「え、発情期が?! そ… そんなことがあるの?」
「それどころか、母乳が少し出始めた時は本当に驚いたわ?!」
「えええ?! それって本当に大丈夫なの? 何かの悪い病気とかではない?」
「ふふふっ… 私もさすがに驚いて、王立医療院でオメガの専門医をしている、フェーブリ医師に診てもらったから大丈夫よ」
赤ん坊と触れ合うことで、母性本能を刺激され、トルセールの身体は、オメガホルモンの作用で次の子供を作るための発情期が抑えられ… 出産直後と同様に、目の前の子供を育てるのに適した、母親の身体へと変化したのだ。
「ふえええぇぇ―――っ…」
「おかげであの人と離婚する覚悟が出来たの… 親のいない子供たちの母親代わりをするだけで、発情期を抑えられて、抑制剤よりも良い効果が出るなんて、素敵な話でしょう?」
愛情深いトルセールだからこそ、起こせた奇跡だった。
「私はこの子たちに救われたのよ、だからアディにも、ここの天使たちに会わせたかったの」
腕の中で眠ってしまった赤ん坊の、可愛いピンクの頬にトルセールはキスを落とした。
午後からジェレンチ公爵家が援助している孤児院に行かないかと、アディは誘われた。
今夜はオエスチ侯爵家の晩餐会へ出席する予定だが、他家の令夫人たちのように…
身体を磨く時間。 念入りに化粧をする時間。 夜会に着るドレスを選ぶ時間。 髪を綺麗に整える時間、等々…
着飾るための準備の時間を、アディは何時間も必要としないため、トルセールの誘いを機嫌良く受け入れた。
(時間をかけても容姿は変わらないと、アディはオシャレに関して、拘らないようにしている)
修道院に隣接した孤児院を訪れると… わぁわぁと大騒ぎで、トルセールに纏わりつく小さな子供たちを、一人ずつ、元気だったか? と声をかけて抱きしめるトルセールの姿に、アディは亡くなった自分の母親の姿が重なり、感動を覚えた。
「あなたは本当に素晴らしい女性ですね!」
そんな平凡な言葉しか浮かばない自分が、恥かしかったけれど… アディはそうトルセールに、言わずにはいられなかった。
<これからはたくさん本を読んで、言葉の勉強をすることにしよう!!>
密かにアディは心に決める。
泣きわめく乳飲み子を抱いて、困り果てていた若い修道女から、赤ん坊を受け取り、トルセールは上手にあやしながら、照れた様子でアディに微笑んだ。
「ここに来て小さな子供たちの世話をしているとね、身体の調子がとても良くなるの」
奇声を発して走り回る、次男のカンタールを眺めながら、トルセールはアディに語った。
トルセールの3人の子供たちも、乳母と一緒に遊びに来ていて、孤児院の子供たちと転げ回って遊んでいる。
この日ばかりは、服が泥だらけになっても、誰にも怒られないから、大喜びだ。
「身体の調子? どこか… 悪いのですか?」
眉をひそめて心配そうにアディがたずねると…
「ほら、オメガの発情期がね…」
「あ…!」
「3人目のコールを産んだ後… あの人と、愛人のことで喧嘩になって… それ以来、私が発情期になっても、私を罰するために、あの人… 私を抱かなくなってね…」
元夫の話をする時、トルセールの顔はどうしても寂しそうになる。
「トルセール…」
「私も彼の言いなりになるのが嫌だから、意地を張って、ずっと折れずにいたの… コールに母乳をあげているうちは、それでも良かったけど、その時期が終ると、少しずつ発情期が辛くなってね」
「何も… 何も知らなくて、ごめんなさい!」
<長兄の意地の悪さを、僕も知っていたはずなのに、トルセールだけは、兄も例外的に優しくしていると思い込んでいたから>
「良いのよ! もう、終わったことだから… 私が言いたかったのはね、こういう手のかかる小さな子の世話をしているうちに、発情期が止まってしまったのよ」
「え、発情期が?! そ… そんなことがあるの?」
「それどころか、母乳が少し出始めた時は本当に驚いたわ?!」
「えええ?! それって本当に大丈夫なの? 何かの悪い病気とかではない?」
「ふふふっ… 私もさすがに驚いて、王立医療院でオメガの専門医をしている、フェーブリ医師に診てもらったから大丈夫よ」
赤ん坊と触れ合うことで、母性本能を刺激され、トルセールの身体は、オメガホルモンの作用で次の子供を作るための発情期が抑えられ… 出産直後と同様に、目の前の子供を育てるのに適した、母親の身体へと変化したのだ。
「ふえええぇぇ―――っ…」
「おかげであの人と離婚する覚悟が出来たの… 親のいない子供たちの母親代わりをするだけで、発情期を抑えられて、抑制剤よりも良い効果が出るなんて、素敵な話でしょう?」
愛情深いトルセールだからこそ、起こせた奇跡だった。
「私はこの子たちに救われたのよ、だからアディにも、ここの天使たちに会わせたかったの」
腕の中で眠ってしまった赤ん坊の、可愛いピンクの頬にトルセールはキスを落とした。
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今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
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