傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
71 / 87

70話 初夜が明けて

しおりを挟む
 頬を撫でられ、アディがふと目覚めると、すでに騎士服を着たデスチーノがベッドの端に座っていた。

「あ…」
<わぁ… デスチーノは騎士服を着ている時が、一番雄々しくて素敵だなぁ… また好きになっちゃいそうだ…>

 ぼんやりとアディは寝転がったまま、デスチーノに見惚れていると…
 頬と額にキスが落ちた。


「すまないアディ… 騎士団へ行かないといけないのだ」
 困った顔でデスチーノはアディに謝った。

 だるい身体をアディがのろのろと起こすと、デスチーノが背中にクッションを二つはさんだ。

「あ… ありがとう…」
<ああ… デスチーノを独り占めする時間は、もう終わりなんだ… でもデスチーノは僕のために、毎日無理を重ねて頑張ってくれたのだから、我がままを言って困らせてはいけないし… 寂しいけど少しぐらい我慢しないとね>

 裸のままクッションにもたれると、アディはため息をはいて、礼を言った。

 素早くデスチーノはベッドを下りて、椅子に掛けてあった、アディに良く似合うペール・オレンジのローブを取ると… 戻って来て、アディの背中に羽織らせ、唇にキスを落とす。

「ふふふっ… 僕の旦那様は何も言わなくても、何でもしてくれるのですね?」

「当然だ! 若く美しい妻に嫌われたくないから、気の利かない乱暴者だと思われないように、優しくしないと」

「あなたのどこが"気が利かない乱暴者"なのですか? 僕の方こそ"気が利かない未熟者"だから、あなたの言っている意味が理解できませんよ?!」
 わざと大袈裟おおげさにアディは驚いて見せ、機嫌良くニコニコと笑った。

 初夜が明けてすぐに、騎士団の仕事に出なくてはならないことで、デスチーノは夫として新妻のアディに罪悪感を持っているのだと、わかっていたからだ。

「君は本当に素晴らしい妻だ! 私は君の夫になれて誇らしいよ!! 毎日、誰かに君を自慢してしまいそうだ!」
 アディの優しさが通じて、デスチーノは満面の笑を浮かべ、大喜びする。

「それはめ過ぎですよ、旦那様! ところで今日は騎士団で何をする予定なのですか?」
 些細ささいなことでデスチーノに褒めちぎられ、アディは恥かしくなり、話題を変えようと仕事の話を聞いた。

「ああ… うん… コンプラ―ル男爵に誘拐された貴族たちが、国外で誰に売られたか、売買名簿が見つかって…」
 急にデスチーノの顔が曇る。

 コンプラ―ル男爵は後々、その名簿に記された有力貴族たちを脅迫し商売に使おうとしていたのだ。


「それは… 名簿が見つからないよりは、ましなのですよね?」

「うん… 名簿にあった国の大使に直接会いに行き、売られた貴族たちの救出を依頼するつもりだ」

 救出も困難だが…
 救出された後の、被害者たちの行く末を考えると、デスチーノは気が重くなった。

 外国に送られる前に見つけて救出した貴族のオメガたちを、家に帰したら…
 純潔は守られたのに、誘拐された時点で傷もの扱いとし、家族に捨てられ、真っ直ぐ修道院に送られたオメガがいたのだ。

 その話を被害者たちを家まで送らせた部下たちに聞き、デスチーノは言葉を失った。

 確かに誘拐されたことが社交界で噂になれば、そのオメガは間違いなく、嫁ぎ先が無くなるだろう。


「デスチーノ、僕の方こそあなたの妻になれて誇りに思います!
今も外国であなたの助けを待っている人はたくさんいるのでしょう? その人たちを救えるのはあなたしかいませんからね! あなたは立派な人です!!」

「…そうだな、後のことはその時になってから、考えることにしよう」

「後のこと?」


 デスチーノは暗い気分を振り切り、ニヤリと笑った。

「ああ、昨夜は君と一緒にいた時間が、ほんのわずかだったから、今夜も初夜にしよう! だからアディ、ゆっくり休んで今夜の2日目の初夜に向けて備えておいてくれよ?」

「?!」
<二日目の初夜―――っ?!!!>

 ぽっ… と頬を赤らめて、アディはニコニコとデスチーノにうなずいた。


 デスチーノはたまらず、熱烈なキスで新妻の唇を奪った。







しおりを挟む
今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
感想 40

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...