61 / 87
60話 自慢の旦那様
しおりを挟む「実はトルセールにも、子供たちを私の養子にすることを、まだ話していない… きっとあいつはすねて、ふくれるだろうから… だからアディ、一緒に説得するのを手伝ってくれるか?」
小さな手を取りチュッ… とキスをして、甘えるようにデスチーノがアディに頼むと…
「お義姉様なら大丈夫ですよ! 僕とは違ってとても賢い女性ですから! ふふふっ… デスチーノ、きっと上手く行きますよ!」
<ああ、デスチーノにもっと、キスして欲しい!! こんな嬉しいことを知った後だもの~ 唇にいっぱい、キスが欲しいよぉ~!>
いつも甘えてばかりのアディは、愛する夫に頼られて、嬉しそうにふんわりと頬を染めて笑った。
「フンッ! オメガのくせに!」
新婚夫婦のイチャイチャとしたやり取りを見て… 気に入らないと、長兄ブラッソが憎々しげにアディを睨み鼻を鳴らす。
「あなたはそんな風だから、お義姉様に捨てられたのです!」
キッ… とアディは兄を睨み付けた。
以前のアディなら、青くなって口を閉じ、自分の意見を口に出すことなど無かったが…
<今日でエントラーダ伯爵家とは決別するのだから、僕が今まで言えなかったことを、全部言ってやる!! トルセールお義姉様の分もいっぱい!!>
「トルセールお義姉様ほど素晴らしい人はいないのに!! あなたは本当に愚かなゲス野郎だから、お義姉様の愛情を失ったのです! あなたには愛される資格など無い!!」
「な… 何だと?! アデレッソス、生意気な!!」
顔を怒りで、カッと赤くした兄がガタッ… と立ち上がるが…
「アナタも含めてエントラーダ伯爵家のアルファは全員ゲス野郎だ!! デスチーノや騎士団のアルファたちにあなたたちのようなゲス野郎はいない!! 僕がいつまでも無知だと思ったら大間違いだから!!」
第一、第二騎士団の騎士たちは、基本的に貴族出身のアルファたちで構成されている。
デスチーノの指導もあり、騎士たちの礼儀正しさに、アディはとても感動していた。
「この…っ!」
拳を握りブラッソは手を振り上げた…
「下の書類にもサインをしろ、ブラッソ! お前はそんな簡単なことも出来ないのか? これ以上私を挑発するな!」
甘い顔でアディを見つめていたデスチーノの態度が一変し、ブラッソを睨み付けた。
「ハッ…! 挑発だなんて、私は…ただ… 義兄上、あなたも見ていたでしょう?! オメガのくせにアデレッソスが先に、生意気なことを言って私を挑発したのです!」
慌ててブラッソは誤魔化そうとするが… 握った拳を振り上げていては、どんな言い訳もデスチーノには通じない。
「私はもうお前の義兄ではない、不愉快だ! それに私の妻は真実を口に出しただけだ!」
「そんな… しかしこのアデレッソスは…っ!」
「お前はトルセールに捨てられたゲス野郎だ! お前のようなやつが私の部下なら… 今後、悪さが出来ないよう、利き腕を折った後、去勢して放り出していただろうな… それが出来なくて残念だ!」
大きな掌を、自分の膝の上で握ったり開いたりして見せて…
剣など使わなくても、デスチーノなら拳一つで今、言ったとおりのことができると、ブラッソに態度で語った。
無表情でデスチーノは、好戦的なアルファの圧力をブラッソに放ち、自分との格の違いを感じさせたのだ。
「・・・・・・」
血の気を失ったブラッソは、再び腰を下ろして、書類にサインする。
アディとトルセールのために、必要な書類にサインをさせるまではと、デスチーノはずっと怒りを抑えていた。
本来、デスチーノは、自分の妻に暴言を吐くアルファを、笑って許せるほど寛容なアルファではない。
学園を卒業し騎士団に入団したての頃は…
"暴れ雄牛"の別称を付けられ、普段は穏やかだが、一旦怒り出すと手が付けられない乱暴者になると恐れられていた。
落ち着いたのは、父が急逝し公爵位を継いでからだ。
「ふふふっ…」
<ひゃあぁぁ~! 僕の旦那様は本当に、強い人なんだなぁ~! 素敵~っ!! デスチーノ、大好きぃ~っ! 僕の自慢の旦那様だぁ~!>
夫の攻撃的な一面に、一瞬ギョッ… としたが、そんなデスチーノに惚れ直し…
アディはふんわり幸せそうに笑って、デスチーノの大きな手を自分の膝に乗せて、指を絡ませ握りしめた。
0
今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
お気に入りに追加
384
あなたにおすすめの小説
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
恋なし、風呂付き、2LDK
蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。
面接落ちたっぽい。
彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。
占い通りワーストワンな一日の終わり。
「恋人のフリをして欲しい」
と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。
「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる