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58話 アディ噛みつく
しおりを挟む今まで必死で守って来た、エントラーダ伯爵家がつぶれるのだと悟り、伯爵は泣き叫んだ。
「お前のような恵まれた奴に何がわかる―――っ!!」
父親の叫びを聞いて、アディは心の底からカッ… とした。
「デスチーノは誰よりも、たくさん働いている!! 王都の人々のために!! 王家のために!! 家族のために!! だからみんなは信頼しているし、デスチーノが困った時は助けてくれるんだ!! オエスチ侯爵様や、剣聖様… それに王太子殿下に騎士団の騎士たちも―――っ!!」
いつも穏やかなアディからは、想像できないほど荒々しい怒鳴り声を、父親に投げつけた。
「黙れアデレッソス!!」
「お父様は僕を売って、コンプラ―ル男爵に助けてもらおうとした! そうやって自分は何もしないで、相手から得られる施しばかりを期待して!! あなたこそ、デスチーノの何がわかると言うのですか―――っ!!」
「クソッ…! 父上の言う通りだ! アルファ同士の話し合いに、オメガが口を出すな!」
長兄が見るに見かねて、口をはさんだが…
「僕が"オメガのくせに"と言うのなら! あなた達こそ、アルファのくせに!! なぜ、デスチーノのように出来ないのですか―――っ?!!!!」
「アデレッソス!!」
初めて聞くアディの辛辣な言葉に、長兄は言葉に詰まる。
同じアルファでも父や兄たちに比べ、デスチーノは特別と言っても良いほど有能で、強いアルファだと知っていて…
アディは兄を黙らせるために侮辱した。
アディと睨み合い黙り込む長兄ブラッソに、デスチーノは止めを刺すように告げた。
「トルセールは二度と、伯爵家には返さない!」
「なっ… そんなことは許されない!! 夫の許可なくそんなことは…っ!」
「トルセールはこれ以上、お前の子供を産みたくないと言っている! お前の愛人に1人ぐらい、アルファがいるのではないか?!」
「そ… それは!!」
「お前がアディと似たような境遇の、哀れなオメガを貧乏貴族から買い、愛人にしているのは知っている! トルセールが持つ鉱山の収益金を使って買ったこともだ!!」
ブラッソは気まずそうに、デスチーノから視線をそらし… デスチーノの言う通りなのだと、態度で認めた。
激怒したアディは、軽蔑を込めて長兄を睨み付けた。
<ああ… ブラッソお兄様も本当にゲス野郎だ!! あんなに優しくて愛情深いトルセールお義姉様を裏切っていたなんて! エントラーダ伯爵家なんてつぶれてしまえば良い―――っ!!>
「お前が素直にトルセールと離婚すれば、リコールの件が表に出る前に、リコール廃嫡の手続きが早く済むように手を回してやる!」
内心ではデスチーノも、エントラーダ伯爵家などつぶれた方が良いと思っている。
だが、アディとトルセール、3人の子供たちの将来を思えば… つぶれるとしても、もっと穏やかな方法でつぶすべきだと考えた。
借金で没落して名家が消えるのと… 死刑になるような重罪人の家だと、汚辱にまみれ、誰にも相手にされなくなってつぶれるのとはわけが違う。
エントラーダ親子の、その後の生活まで、影響が出るのは明らかで… 最終的にデスチーノの提案と要求は全て受け入れられた。
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今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
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