傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
56 / 87

55話 怒り狂う招待客2

しおりを挟む

 オエスチ侯爵夫妻と剣聖、結婚式への参列者たちとは、それぞれ丁寧ていねいに礼を言い礼拝堂で別れ…
 アディとデスチーノはエントラーダ親子を連れ、騎士団長の執務室へと場所を移し、話し合うことにした。



 応接用のソファセットに落ち着くと、すぐに従者のカディラがお茶を用意し執務室に運び込む。


「それで面白い話とは?!」
 エントラーダ伯爵はイライラと急かすが、デスチーノはのんびり流した。

「まぁ、そう焦らずに! 先にお茶を飲んでからにしましょう… 私たちは結婚式のために、早朝からとても忙しく、ようやく落ち着く時間が得られたのですから」
 アディがれたお茶を受け取り、デスチーノはニコリと嬉しそうに笑いかけると、お茶の芳香を楽しんでから満足そうに口を付ける。

 この後すぐ、デスチーノは目が回りそうなほど忙しい仕事が待っているのだから… 結婚式の余韻よいんを楽しむ時間が、少しぐらいあっても良いはずである。


「いい加減にして下さい! 義兄上」
 長兄も落ち着きを失くし、声を荒げるが、デスチーノは少しも動じず美味しそうにお茶を飲み続けた。

 オエスチ侯爵夫妻が見届け人となり、剣聖がり行った結婚式を無効だとは言えず… エントラーダ親子は、無理やりアディを連れ帰ろうとするのはあきらめた。

 渋々だが、父親と長兄はアディをジェレンチ公爵夫人と認めたのだ。


「・・・・っ」
 怒り狂い、大声で怒鳴る二人に、アディはビクッ… ビクッ… と震えながらも、表面上は平常心を保ち、父親と長兄にお茶を注いで手渡したが…
 エントラーダ親子はせっかくれたてのお茶を受け取っても、口を付けず乱暴にカチャンッ… とテーブルへ置いた。

<デスチーノ、話とは何?! 僕にも事前に教えておいて欲しかった!>
 アディはチラリと視線をエントラーダ親子に向けると、長兄にじろりとにらまれ、慌てて自分の手の中のティーカップに視線を移した。

 デスチーノの励ましの言葉が、アディの脳裏をぎり…

『大丈夫だアディ、君はもう私の妻なのだから! 恐れることは無い、堂々としていれば良い』

<そうだよ! 僕はもうデスチーノの妻で、ジェレンチ公爵夫人だもの… もっと公爵の妻として威厳いげんを持って、堂々としていなければ、夫に恥をかかせてしまうよ!! 威厳… 威厳…>

 アディもデスチーノに合わせてゆっくりとお茶を飲みながら…
 一番のお手本になりそうな、公爵令嬢である義姉トルセールのまねをして、ピンッ… と小指を立ててティーカップを持った。

<ううっ… 小指を立ててお茶を飲むのって、意外と難しいよぉ~?! これは練習が必要だなぁ~>

 エントラーダ親子は、デスチーノがお茶を飲み終わるまでは絶対に口を開かないと悟り、自分たちもイライラとティーカップを取り、お茶を飲む。



 静かな時間が数分続いたあと、ようやくデスチーノがお茶を飲み終え口を開いた。


「エントラーダ伯爵、あなたの次男リコールを今すぐ絶縁し、貴族籍から抜くことをおすすめします!」





しおりを挟む
今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
感想 40

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...