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55話 怒り狂う招待客2
しおりを挟むオエスチ侯爵夫妻と剣聖、結婚式への参列者たちとは、それぞれ丁寧に礼を言い礼拝堂で別れ…
アディとデスチーノはエントラーダ親子を連れ、騎士団長の執務室へと場所を移し、話し合うことにした。
応接用のソファセットに落ち着くと、すぐに従者のカディラがお茶を用意し執務室に運び込む。
「それで面白い話とは?!」
エントラーダ伯爵はイライラと急かすが、デスチーノはのんびり流した。
「まぁ、そう焦らずに! 先にお茶を飲んでからにしましょう… 私たちは結婚式のために、早朝からとても忙しく、ようやく落ち着く時間が得られたのですから」
アディが淹れたお茶を受け取り、デスチーノはニコリと嬉しそうに笑いかけると、お茶の芳香を楽しんでから満足そうに口を付ける。
この後すぐ、デスチーノは目が回りそうなほど忙しい仕事が待っているのだから… 結婚式の余韻を楽しむ時間が、少しぐらいあっても良いはずである。
「いい加減にして下さい! 義兄上」
長兄も落ち着きを失くし、声を荒げるが、デスチーノは少しも動じず美味しそうにお茶を飲み続けた。
オエスチ侯爵夫妻が見届け人となり、剣聖が執り行った結婚式を無効だとは言えず… エントラーダ親子は、無理やりアディを連れ帰ろうとするのはあきらめた。
渋々だが、父親と長兄はアディをジェレンチ公爵夫人と認めたのだ。
「・・・・っ」
怒り狂い、大声で怒鳴る二人に、アディはビクッ… ビクッ… と震えながらも、表面上は平常心を保ち、父親と長兄にお茶を注いで手渡したが…
エントラーダ親子はせっかく淹れたてのお茶を受け取っても、口を付けず乱暴にカチャンッ… とテーブルへ置いた。
<デスチーノ、話とは何?! 僕にも事前に教えておいて欲しかった!>
アディはチラリと視線をエントラーダ親子に向けると、長兄にじろりと睨まれ、慌てて自分の手の中のティーカップに視線を移した。
デスチーノの励ましの言葉が、アディの脳裏を過ぎり…
『大丈夫だアディ、君はもう私の妻なのだから! 恐れることは無い、堂々としていれば良い』
<そうだよ! 僕はもうデスチーノの妻で、ジェレンチ公爵夫人だもの… もっと公爵の妻として威厳を持って、堂々としていなければ、夫に恥をかかせてしまうよ!! 威厳… 威厳…>
アディもデスチーノに合わせてゆっくりとお茶を飲みながら…
一番のお手本になりそうな、公爵令嬢である義姉トルセールのまねをして、ピンッ… と小指を立ててティーカップを持った。
<ううっ… 小指を立ててお茶を飲むのって、意外と難しいよぉ~?! これは練習が必要だなぁ~>
エントラーダ親子は、デスチーノがお茶を飲み終わるまでは絶対に口を開かないと悟り、自分たちもイライラとティーカップを取り、お茶を飲む。
静かな時間が数分続いたあと、ようやくデスチーノがお茶を飲み終え口を開いた。
「エントラーダ伯爵、あなたの次男リコールを今すぐ絶縁し、貴族籍から抜くことをおすすめします!」
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今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
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