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51話 結婚前の思い出作り3
しおりを挟む精を吐き出し、ハァッ… ハァッ… ハァッ… とアディは荒い息づかいで、身体を支える腕に力が入らず、ガクガクさせていると…
デスチーノが長い腕をアディの華奢な背中に回し、ギュッ… と抱きしめ、自分の上にうつ伏せで乗せた。
へたっ… とアディは脱力し、フゥ―――ッ… と長いため息をつき… 熱いデスチーノの肩にぺたりと頬をくっつけて、うっとりと瞳を閉じる。
<やっぱり隠し事は出来ないなぁ… だって、デスチーノはすごく頭が良くて鋭いから、僕の隠し事なんてすぐに気付かれてしまうもの… それに悩ませて、傷つけるのは嫌だしねぇ…>
もう一度、フゥ―――ッ… とアディは長いため息をつき、呼吸を整えて話す覚悟を決めた。
「僕… フーア様に… バラの庭園で会いました」
「フーアに? ああ、会ってもおかしくないな… 彼が暮らす離れ家は、この公爵邸の敷地内にあるのだから」
「はい… それで、お茶に誘われてフーア様と話をするうちに、僕は不安になりました… あの方は少しも心の病を患っているようには見えなかったから」
「そうらしいな… 狂うのは私といる時だけらしい、それだけ私を嫌っているからだろうな」
「・・・・・・」
フッ… とアディは目を開けて、デスチーノの顔をジッ… と見つめた。
「それで?」
「あなたが彼に、また夢中になったらと思うと怖いです… それと、あなたにずっと愛され続けたフーア様がうらやましくて、醜い嫉妬を感じます」
<凛とした美しさがあり… 容姿だけではなく、話していてすぐに聡明な人だと分かり、フーア様はデスチーノにお似合いの人だと思った>
子どもっぽくて夢見がちで、アディは愚かで軽薄なオメガだと、父親と2人の兄にバカにされながら育った。
フーアは… そんなアディの劣等感を、強く刺激するのに十分な魅力を持つオメガなのだ。
「アディ… "番の契り"を結んだ相手は、親や兄弟などよりも、ずっと特別な存在だ、アルファとオメガの本能で繋がる関係だからな」
「はい」
ずきっ… ずきっ… とアディの胸が痛み、顔をしかめた。
「だけど、"番"と5年も離れていると、その本能も薄れるんだ… あんなに執着していたはずなのに、離婚が成立したら… 正直、私はホッとしたよ… 私はフーアを愛する妻ではなく、いつの頃からか重荷だと感じていたと、ようやく自覚したのさ」
「フーア様が重荷…?」
「そう、重荷だ!」
「それで… あなたは」
コンッ… コンッ… コンッ… 廊下側から扉をたたく音が部屋に響く。
従者のカディラがデスチーノを起しに来たのだ。
「うわわわっ―――?!!」
アディは慌てて、デスチーノの身体から下りて、上掛けを鼻の下まで引っ張り上げた。
「クソッ…! 時間切れか!」
罵りをもらすと、デスチーノは飛び起きて、ベッド脇の椅子からローブを取り、バサッ… と羽織りベルトを腰で結びながら、扉へ向かった。
分厚いカーテンの隙間から、綺麗に赤く染まった朝焼けの空が見えていた。
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今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
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