傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
39 / 87

38話 オエスチ侯爵の問いかけ2

しおりを挟む
 オエスチ侯爵はひとしきり大笑いした後…

「ああ~っ… 失礼!」
 ゴホンッ… ゴホンッ… と咳払いをすると、打って変わって真面目な顔をする。

「結婚するのなら、出来ればこの社交シーズン中にした方が良い」

「さすがにそれは難しいかと… そのためにはまず、離婚を成立させなければいけませんし… 確か、数か月はかかると弁護士に言われましたから…」

「通常通りならば、確かに時間は掛かるだろうが… 君は何年も王太子殿下の世話をして来たのだから、彼に口利きを頼めば良いさ」 

 オエスチ侯爵はニヤリとアディに笑い掛けた。

 急に笑い掛けられ、アディは困り顔でへらっ… と愛想笑いで返す。

「うう… 王族にはあまり、借りを作りたくはないのですが… 後から面倒なので」

 数年前まで第一騎士団の騎士団長は王太子が務めていたが…
 王太子自身が多忙を極めるようになり、騎士団長職を辞任した。

 当時は副騎士団長だったデスチーノが、その後で騎士団長に任命されたのだ。


「何を言っている、王太子に貸しの一つぐらいはあるだろう?」

「無くはありませんが…」
 デスチーノは頭をガシガシとかく。

「なるべく早く結婚まで成立させて、社交シーズン中にいくつか有力貴族たちの招待状を手に入れて2人で顔を出せば、今年中に醜聞など消えて無くなるさ! 招待状は私が頼んでやる」

「本当ですか?!」
 ずっとアディの醜聞に心を痛めていたデスチーノは、急にやる気になった。

「コンプラ―ル男爵との変な噂が出る前に、全部終わらせてすきを見せないことだ」

「んん? エントラーダ伯爵ではなくて、コンプラ―ル男爵… ですか?!」
 思いもよらぬ名前を聞き、デスチーノは顔をしかめた。

 結婚式の日に、教会でアディとイチャついていた男だと思うと、腹が立つのだ。

生粋きっすいの騎士である君は、やはりあの噂は知らないようだな? 私の弟が商人の娘と結婚して、商売をやっているのだが… ついこの間もコンプラ―ル男爵が詐欺まがいのやり方で、商売敵を潰したと言っていたから…」
 オエスチ侯爵自身も、かなり手広く事業に投資しているらしく、その手の話題に関してはとても敏感なのだ。

「あの男はそれほど、危険な男なのですか?!」
 教会で姿を見た時、あの年齢でアディのような若いオメガと結婚しようとするのだから… かなり強欲な人間だと、デスチーノはコンプラ―ル男爵にそういう印象を持った。

「うむ… そういう話だ! 私も聞いただけで真偽の確認まではしていないが、弟の目の確かさは保証する!」

「なるほど… 分かりました! どちらにしてもエントラーダ伯爵を抑えるのも面倒ですし」
 そうと決まればと、オエスチ侯爵と話をしながら、デスチーノはこれからどう進めて行くかを考えていた。

「来月、ウチでも晩餐会やら舞踏会を開くから、君たちのことは妻に話しておく… きっと喜ぶだろう!」

「ご迷惑でなければ良いのですが?」
 手助けしてもらえるのは有難いが、デスチーノはちょくちょく世話になっている相手に迷惑を掛けるようになれば、やはり心苦しい。

 どちらにしても… 慌てて離婚し、慌てて結婚すれば誰かに変な勘繰かんぐりをされるのは目に見えている。


「いやいや、恐らく君らが結婚すれば、話題の中心になるのは間違いないからな、妻は喜ぶさ!」

「あまり良い話題は、提供できないでしょうが…」

「そこは君が上手く、美談に持って行けるよう工夫をするのさ!」

「うううっ… そう言うのが一番、苦手なのですが?」
 眉尻を下げて、デスチーノはため息を吐く。

「やれやれ、よくそれで王太子の右腕なんかやっていられたなぁ?」
 オエスチ侯爵は、カラカラと楽しげに笑い声を立てた。

 とても頼りになる、完璧なデスチーノしか見たことの無かったアディは… 子供のように情け無さそうな顔をして、ガックリ肩を落とす姿に、妙な感動を覚えた。




 落ち込むデスチーノの隣りで、アディは琥珀色こはくいろの瞳をキラキラと輝かせた。







しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。 面接落ちたっぽい。 彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。 占い通りワーストワンな一日の終わり。 「恋人のフリをして欲しい」 と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。 「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

君なんか求めてない。

ビーバー父さん
BL
異世界ものです。 異世界に召喚されて見知らぬ獣人の国にいた、佐野山来夏。 何かチートがありそうで無かった来夏の前に、本当の召喚者が現われた。 ユア・シノハラはまだ高校生の男の子だった。 人が救世主として召喚したユアと、精霊たちが召喚したライカの物語。

処理中です...