傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
38 / 87

37話 オエスチ侯爵の問いかけ

しおりを挟む
 執務室のソファで、機嫌良く微笑みながらお茶を飲むオエスチ侯爵の向かい側で…
 居心地いごこち悪そうに、もじもじとお茶を飲むデスチーノとアディ。

 端から見ればどちらがこの執務室のあるじか分からないだろう。

 カチャリッ… とティーカップをテーブルに置きながら、一番最初に口を開いたのはオエスチ侯爵だった。


「確か君は… エントラーダ伯爵家の御令息だったかな?」
 デスチーノよりも5,6歳年上のオエスチ侯爵がアディにたずねる。

「は… はい、エントラーダ伯爵家の三男アデレッソスと申します」
 赤い顔をしながらも、アディは真っ直ぐオエスチ侯爵を見つめながら自己紹介をした。

 デスチーノなどより、交友範囲が広いオエスチ侯爵は、当然アディの元婚約者との醜聞騒ぎも知っているはずである。


「ふむ、それでジェレンチ公爵、結婚は何時する気だ? 君には奥方がいるはずだが?」

 表面的には微笑んではいても、少しも目が笑っていないオエスチ侯爵の質問に… 
 これは正直に話さなければ信用を失うぞ、と危機感を感じ… 姿勢を正し気を引き締めて、デスチーノも真っ直ぐにオエスチ侯爵を見つめて答えた。

「妻と別居して5年になります… 先程、離婚に向けての手続きを弁護士に依頼したところです」

「つまり、君たちは離婚が成立したら、結婚をするつもりなのだな?」

「はい!」
 オエスチ侯爵の問いかけに、力強くデスチーノはうなずいたが…

「えええええ―――――――――っ?!!!」
 隣に座るアディは、デスチーノを見あげて、自分との結婚の意志があることを初めて知り、叫び声を上げた。

「アディ…?!」
 狼狽うろたえるアディを見下ろして、デスチーノは何とも言えない微妙な顔をする。

「結婚するのですか?!」
 思わずアディがたずねると…

「私と結婚しないのか?!」
 慌ててデスチーノはたずね返す。

「だって、そ… そんな話、聞いてないから… 僕の評判はとても悪いし… てっきり、愛人止まりだと覚悟していたし… でもフーア様と離婚はするのかなぁ~と… そうしたら僕はあなたを独り占めできると良いな~って思っていたけれど…?」
 両手の指を組み合わせて、もじもじと動かしアディは上目遣いでデスチーノを、チラッ… チラッ… と見る。

「いいか、アディ! それだと君はいつまでもエントラーダ伯爵に帰属し、利用され続けることになる」

「だ… だから僕をあなたが買ってくれるのかなぁ~っ…と?」

「確かに伯爵家へ、相応の金額の支度金は出すつもりだが… アディは私と結婚するのが嫌なのか?!」

「嫌ではありませんっ!!」
 顔をぶんぶんと横に振って、アディは力いっぱい否定した。

「だったら私と結婚しても、問題は無いな?」
 ホッと胸を撫で下ろしながらデスチーノは微笑み、アディの頭をぽんっ… ぽんっ… とした。

「僕は問題無いけど、あなたは大ありでしょう? だから良いのかと心配で!!」

「そ…それはだな…?」
 頬を赤く染めて、デスチーノが言い淀むと…


 プハッ!! と向かい側のオエスチ侯爵が吹き出した。


「オエスチ侯爵?」
 デスチーノは赤い顔で、オエスチ侯爵をにらみ付けた。

「実に可愛い、やり取りだ!」

 クッ… クッ… クッ… と、オエスチ侯爵は楽し気に笑いながら肩を揺らす。


「/////////ッ!」
「////////~っ」


 アディとデスチーノは2人仲良く赤くなる。




しおりを挟む
今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
感想 40

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。 面接落ちたっぽい。 彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。 占い通りワーストワンな一日の終わり。 「恋人のフリをして欲しい」 と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。 「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

処理中です...