傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

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29話 公爵様を見送る

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 アディが玄関ホールまで行くと…

 執事から剣を受け取り、カチャッ… カチャッ… と小さな金属音を立てて、デスチーノは腰に巻いた幅広の革ベルトに金具を引っ掛け、剣を装着していた。


「何か用か?」
 チラリと視線を寄こしたデスチーノに、アディは素っ気なくたずねられ…

「あ… あの、お見送りを… デス…公爵様を… お見送りするようにと、お義姉様が…」
 尻すぼみ気味にアディはしょんぼりと返答し、デスチーノと目を合わせていられず下を向いた。

<ああ、嫌われちゃった… デスチーノに嫌われちゃった…っ…>


「そうか」
 関心無さそうにうなずき、カチカチと装着した剣の金具がこすれる音を立てながら、デスチーノは玄関ホールを出て行く。

 アディもとぼとぼと、うつむき加減で後に続いた。




 玄関前まで来ると、デスチーノは立ち止まり…

「カディラ、先に厩舎きゅうしゃへ行って、私の馬を連れて来てくれ! お前も見送りはここまでで良い」

 従者のカディラは軽くうなずき、一人で厩舎きゅうしゃへ向かい… 執事も丁寧に頭を下げてから、邸内へ戻って行く。

 アディも執事と一緒に邸内に戻ろうとしたが…

「アディ」

「・・・・・?」
 デスチーノに呼ばれ振り向くと、手を差し伸べられ… おずおずとアディが手を伸ばすと、小さな手はギュッ… と握られ引き寄せられた。

 小柄なアディを自分の大きな身体で隠すように… デスチーノは玄関に背を向け、すっぽりとアディを抱き込んだ。


「デ… デスチーノ?!」
 驚いてアディが見上げると、デスチーノはちいさな貝殻のような耳に唇を寄せてささやいた。

「すまなかった、アディ… 昨夜はきつく言い過ぎた!」

「…あ、僕の方こそ、ごめんなさい… あなたを傷つけて、本当にごめんなさい…!」 
 アディもデスチーノの耳に小さな声で謝った。

 涙がじわりとにじんで、ギュッ… と目を閉じてアディは涙をこらえる。

「怒り狂ったトルセールから、大体の事情は聞いたが、君からも聞きたい…」
 小さな耳にデスチーノはキスを落とす。

「はい、もう二度とあなたに嘘は吐きません…」
 アディも伸び上がって、デスチーノの頬にキスをする。

「隠し事もしないで欲しい… 私も話すから」

「はい、デスチーノ… もっとあなたのことを教えて下さい!」

「それと、抑制剤は必ず飲んでおいてくれ… でないと、君はあまりにも魅力的過ぎて、私の正気が保てないから」

「…っ!?」


 華奢きゃしゃな背中に回した腕を緩め、デスチーノは身体を離す。

 涙で潤んだ、琥珀色こはくいろの瞳で見あげるアディの唇に、軽いキスを落とした。

 軽いキスでは物足りなくて、アディは広い胸に手を置き、もう一度欲しいと背伸びをしてねだると…
 今度は貪るような濃密なキスが、アディの小さな唇を包み、デスチーノの温かい舌がするりと口内に滑り込む。

「んんっ…!」

 チュクチュク…ッ… チュチュ… と唇を鳴らして顔を離すと…

「抑制剤は飲んでいる… よな?」
 荒い息づかいで耳にチュッ… と音を立ててキスをすると、デスチーノはアディに確認した。

「は…い…」
 アディの息遣いもデスチーノと同様に乱れていた。

「すごい量のフェロモンだ…」

「そ… それはあなたも同じですよ?」

「これは参ったなぁ…」

 ぼやきながら、もう一度アディの唇にキスを落として、名残惜し気にデスチーノは身体を離す。


 アディのフェロモンを振り払うように、デスチーノは頭を振ってから顔をゴシゴシとてのひらでこすった。


「本当に参ったなぁ…」




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今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
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