傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
30 / 87

29話 公爵様を見送る

しおりを挟む

 アディが玄関ホールまで行くと…

 執事から剣を受け取り、カチャッ… カチャッ… と小さな金属音を立てて、デスチーノは腰に巻いた幅広の革ベルトに金具を引っ掛け、剣を装着していた。


「何か用か?」
 チラリと視線を寄こしたデスチーノに、アディは素っ気なくたずねられ…

「あ… あの、お見送りを… デス…公爵様を… お見送りするようにと、お義姉様が…」
 尻すぼみ気味にアディはしょんぼりと返答し、デスチーノと目を合わせていられず下を向いた。

<ああ、嫌われちゃった… デスチーノに嫌われちゃった…っ…>


「そうか」
 関心無さそうにうなずき、カチカチと装着した剣の金具がこすれる音を立てながら、デスチーノは玄関ホールを出て行く。

 アディもとぼとぼと、うつむき加減で後に続いた。




 玄関前まで来ると、デスチーノは立ち止まり…

「カディラ、先に厩舎きゅうしゃへ行って、私の馬を連れて来てくれ! お前も見送りはここまでで良い」

 従者のカディラは軽くうなずき、一人で厩舎きゅうしゃへ向かい… 執事も丁寧に頭を下げてから、邸内へ戻って行く。

 アディも執事と一緒に邸内に戻ろうとしたが…

「アディ」

「・・・・・?」
 デスチーノに呼ばれ振り向くと、手を差し伸べられ… おずおずとアディが手を伸ばすと、小さな手はギュッ… と握られ引き寄せられた。

 小柄なアディを自分の大きな身体で隠すように… デスチーノは玄関に背を向け、すっぽりとアディを抱き込んだ。


「デ… デスチーノ?!」
 驚いてアディが見上げると、デスチーノはちいさな貝殻のような耳に唇を寄せてささやいた。

「すまなかった、アディ… 昨夜はきつく言い過ぎた!」

「…あ、僕の方こそ、ごめんなさい… あなたを傷つけて、本当にごめんなさい…!」 
 アディもデスチーノの耳に小さな声で謝った。

 涙がじわりとにじんで、ギュッ… と目を閉じてアディは涙をこらえる。

「怒り狂ったトルセールから、大体の事情は聞いたが、君からも聞きたい…」
 小さな耳にデスチーノはキスを落とす。

「はい、もう二度とあなたに嘘は吐きません…」
 アディも伸び上がって、デスチーノの頬にキスをする。

「隠し事もしないで欲しい… 私も話すから」

「はい、デスチーノ… もっとあなたのことを教えて下さい!」

「それと、抑制剤は必ず飲んでおいてくれ… でないと、君はあまりにも魅力的過ぎて、私の正気が保てないから」

「…っ!?」


 華奢きゃしゃな背中に回した腕を緩め、デスチーノは身体を離す。

 涙で潤んだ、琥珀色こはくいろの瞳で見あげるアディの唇に、軽いキスを落とした。

 軽いキスでは物足りなくて、アディは広い胸に手を置き、もう一度欲しいと背伸びをしてねだると…
 今度は貪るような濃密なキスが、アディの小さな唇を包み、デスチーノの温かい舌がするりと口内に滑り込む。

「んんっ…!」

 チュクチュク…ッ… チュチュ… と唇を鳴らして顔を離すと…

「抑制剤は飲んでいる… よな?」
 荒い息づかいで耳にチュッ… と音を立ててキスをすると、デスチーノはアディに確認した。

「は…い…」
 アディの息遣いもデスチーノと同様に乱れていた。

「すごい量のフェロモンだ…」

「そ… それはあなたも同じですよ?」

「これは参ったなぁ…」

 ぼやきながら、もう一度アディの唇にキスを落として、名残惜し気にデスチーノは身体を離す。


 アディのフェロモンを振り払うように、デスチーノは頭を振ってから顔をゴシゴシとてのひらでこすった。


「本当に参ったなぁ…」




しおりを挟む
今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
感想 40

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

処理中です...