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27話 ジェレンチ公爵邸の朝
しおりを挟む王立第一騎士団の騎士服で身を包み、デスチーノは朝食室で食後のお茶を飲みながら、ピシッ… と綺麗にアイロンをかけた新聞に目を通していた。
「お兄様、読み終わったら私にも見せて下さる? 伯爵邸では見せてもらえないの」
エントラーダ伯爵家のアルファたちは、オメガに新聞などを読ませて、余計な知恵を付けられては困ると、伯爵の命令で禁止しているのだ。
「ああ、もう読んだ」
デスチーノは、近くにいた使用人に新聞を手渡すと… 斜め向かい側に座る、妹のトルセールへと新聞を持ってい行く。
「ありがとう、お兄様」
使用人に軽くうなずきながら新聞を受け取り、礼を言うトルセールに、デスチーノは険しい顔でたずねた。
「それでトルセール、何でお前がここにいるのだ?」
早朝、突然押し掛けて来たトルセール。
「あら、ジェレンチ公爵邸は、私の実家では無かったかしら?」
「ああ、確かにお前の実家だが… それで?」
「私が3人目を身籠ってから出産して、お乳をあげている間に、愛人を作り、私が嫁いだ時の持参金を愛人に貢ぐような男が、私の周りをうろつくのが耐えられなくなったからよ」
ジェレンチ公爵邸に帰って来たトルセールは、3人の子供と乳母まで連れて来た。
「…それは残念だったな」
初めて聞いた義弟の不誠実さに、デスチーノも不機嫌な態度を続けては居られず、ため息を吐く。
「最初の子と、2人目の子の時も同じだったわ!」
フンッ… と、吐き捨てるように、トルセールは夫の悪口を追加した。
恋愛結婚をしたトルセールは、夫がそこまで不誠実だったとは、結婚前には考えもつかなかったのだ。
「ああ… それは辛かったな」
夫婦でも寝室は別々にするのが、貴族なら一般的だが… デスチーノとトルセールの両親、先代の公爵夫妻は、母が病気で亡くなるまで同じベッドで眠るほど仲が良かった。
恋愛結婚をすれば、トルセールは自分も両親のようになれると思っていたのだ。
「でもね、一番許せないのは、愛人に貢いだりせず、お金を借金返済に使えば良いのに… 弟のアデレッソスを子供を産む道具のように扱い、コンプラ―ル男爵に売りつけようとしたことよ!」
昨夜、号泣するアディから話を聞き出したトルセールは、夫に詰め寄り問い質し、アディの話が全て真実だと確認した。
徐々にトルセールは、怒りを爆発させてゆく。
「んんん―――っ…」
唸りながらデスチーノは、妹の話を黙って聞いていた。
早朝、公爵邸に戻って来た妹は、朝の支度をするデスチーノを捕まえて、コンプラ―ル男爵とエントラーダ伯爵の取り決めについてぶちまけたのである。
「私が産んだ可愛い子供たちが、3人ともオメガだったから、次はアルファを産まなければ離婚すると脅したり…」
ハッ… と息を呑む音が、トルセールの隣席から聞こえた。
「そうよね… アデレッソスはこんな話は知らなかったのよね」
「お義姉様、すみません… まさか長兄がそんな… 僕は何も知らなくて…」
隣の席でトルセールに申し訳なさそうな顔をするアディの腕を…
トントンとなだめるようにトルセールは叩いた。
つまり、腹を立てたトルセールは、長年の苛立ちも加味して、離婚覚悟で子供とアディを連れて、実家に戻ったのだ。
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今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
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