傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
26 / 87

25話 誤解と真相

しおりを挟む
 うなじを撫でていた大きな手がギュッ… と細い首を掴み、シーツにアディの顔を押し付けた。

「ううんっ…!?」

「お前が私をはめようとしているのは、分かっている」

「えっ?!」
 振り向いて、デスチーノの顔を見たかったが、うなじを強く押さえ付けられ、アディはシーツに張り付けられたように、動けなかった。

「私を騙して、コンプラ―ル男爵との結婚から、逃げ出したかったのだろう?」

「違うっ! そ… そんなこと望んでいない…っ!!」

「いいや、違わない! お前は私を誘惑するために、飲むと言っていた薬を飲まずに、私の前にこの綺麗な身体を投げ出して誘っているのが証拠だ!」

「・・・・・っ」
 息を呑みアディは沈黙する。

 アディの沈黙は肯定こうていとなった。

「アデレッソス、お前は私を利用しようとした!」

「・・・・・・」
 抑制剤も避妊薬も飲まずに、デスチーノを騙しアディは子種を盗もうとした。

 目的は違うが、アディはデスチーノが言う通り、利用しようとしたのだ。


「お前には失望した… だが、お前の望みを叶えてやろう、昨夜そう約束したからな!」

「違う! 僕は… 僕は…っ!」
<子供を産むなら大好きなデスチーノの子が良いと… 誰にも愛されなくても、愛せる子が欲しくて… 僕は… >

「利用されてばかりでは割に合わないからな! お前は今から私の愛人になるのだ… 苦労はさせない、お前の望み通りお前を可愛がってやる!」

「そんな…っ! 僕は… 望んでいない!」

「そうか、やはりお前の望みは私の妻になることだったか!?」

「違う!デスチーノ聞いて! 僕の話を聞いて!!」

「聞きたくない! トルセールから、私がいかに惨めな男かを聞いたのだろう? あいつは妻のフーアと離婚しろと、ずっとうるさかったからな! お前はトルセールにそそのかされて、その気になった… 違うか?!」

「何を言っているの?! デスチーノ!」

「妻は… 私の顔さえ見なければ、正常でいられると! 動揺し子供のように泣き叫ぶのは、私が側に居る時だけだそうだからな! 妹にそう聞いたのだろう?!」
 愛する妻から受ける仕打ちにしては、デスチーノにはあまりにも屈辱的だった。
 
 それに何年もデスチーノは耐え続けて来たため… 一生をこのままで終えるのかと、トルセールはそんな兄を心配していたのだ。


「デスチーノ… そんな、デスチーノ…」
<そんなの… 知らない! 知らなかった! デスチーノがそんなに悲しい思いをしていたなんて!!>

「そうだ、フーアは私さえいなければ、正常に判断を下せる! 離婚を切り出せば喜んで応じるだろう! ただし、私が直接会わなければの話だがな!!」
 大声でデスチーノに怒鳴られて、琥珀色こはくいろの瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。

「ごめんなさい… デスチーノ、騙してごめんなさい… でも、あなたの妻に… なりたくてしたのでは… ありません… 僕は… 僕は…」
<僕がついた嘘は誤解とはいえ… ずっと悲しい思いをしてきたデスチーノのプライドを深く傷つけてしまった… そんなつもり無かったのに… 僕は本当にバカだった…>

 止めどなく涙があふれ、泣くのは卑怯ひきょうだと思うのに、アディは泣くことを止められなかった。

「・・・・・っ」
 怒りで眉を吊り上げていたデスチーノの顔が、アディの涙を見てクシャリと歪んだ。

「ごめんなさい…」

「クソッ…!!」
 シーツに押し付けるために掴んでいたアディの細いうなじを放し、デスチーノはベッドから下りた。

 アディが流した涙が、デスチーノの怒りと発情を鎮静したのだ。


 脱ぎ捨ててあった騎士の礼装を掴むと、そのままデスチーノはアディの部屋を出て行く。


 バタンッ… と乱暴に扉が閉められる音を聞き、アディは声を上げて泣いた。








しおりを挟む
今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
感想 40

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...