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25話 誤解と真相

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 うなじを撫でていた大きな手がギュッ… と細い首を掴み、シーツにアディの顔を押し付けた。

「ううんっ…!?」

「お前が私をはめようとしているのは、分かっている」

「えっ?!」
 振り向いて、デスチーノの顔を見たかったが、うなじを強く押さえ付けられ、アディはシーツに張り付けられたように、動けなかった。

「私を騙して、コンプラ―ル男爵との結婚から、逃げ出したかったのだろう?」

「違うっ! そ… そんなこと望んでいない…っ!!」

「いいや、違わない! お前は私を誘惑するために、飲むと言っていた薬を飲まずに、私の前にこの綺麗な身体を投げ出して誘っているのが証拠だ!」

「・・・・・っ」
 息を呑みアディは沈黙する。

 アディの沈黙は肯定こうていとなった。

「アデレッソス、お前は私を利用しようとした!」

「・・・・・・」
 抑制剤も避妊薬も飲まずに、デスチーノを騙しアディは子種を盗もうとした。

 目的は違うが、アディはデスチーノが言う通り、利用しようとしたのだ。


「お前には失望した… だが、お前の望みを叶えてやろう、昨夜そう約束したからな!」

「違う! 僕は… 僕は…っ!」
<子供を産むなら大好きなデスチーノの子が良いと… 誰にも愛されなくても、愛せる子が欲しくて… 僕は… >

「利用されてばかりでは割に合わないからな! お前は今から私の愛人になるのだ… 苦労はさせない、お前の望み通りお前を可愛がってやる!」

「そんな…っ! 僕は… 望んでいない!」

「そうか、やはりお前の望みは私の妻になることだったか!?」

「違う!デスチーノ聞いて! 僕の話を聞いて!!」

「聞きたくない! トルセールから、私がいかに惨めな男かを聞いたのだろう? あいつは妻のフーアと離婚しろと、ずっとうるさかったからな! お前はトルセールにそそのかされて、その気になった… 違うか?!」

「何を言っているの?! デスチーノ!」

「妻は… 私の顔さえ見なければ、正常でいられると! 動揺し子供のように泣き叫ぶのは、私が側に居る時だけだそうだからな! 妹にそう聞いたのだろう?!」
 愛する妻から受ける仕打ちにしては、デスチーノにはあまりにも屈辱的だった。
 
 それに何年もデスチーノは耐え続けて来たため… 一生をこのままで終えるのかと、トルセールはそんな兄を心配していたのだ。


「デスチーノ… そんな、デスチーノ…」
<そんなの… 知らない! 知らなかった! デスチーノがそんなに悲しい思いをしていたなんて!!>

「そうだ、フーアは私さえいなければ、正常に判断を下せる! 離婚を切り出せば喜んで応じるだろう! ただし、私が直接会わなければの話だがな!!」
 大声でデスチーノに怒鳴られて、琥珀色こはくいろの瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。

「ごめんなさい… デスチーノ、騙してごめんなさい… でも、あなたの妻に… なりたくてしたのでは… ありません… 僕は… 僕は…」
<僕がついた嘘は誤解とはいえ… ずっと悲しい思いをしてきたデスチーノのプライドを深く傷つけてしまった… そんなつもり無かったのに… 僕は本当にバカだった…>

 止めどなく涙があふれ、泣くのは卑怯ひきょうだと思うのに、アディは泣くことを止められなかった。

「・・・・・っ」
 怒りで眉を吊り上げていたデスチーノの顔が、アディの涙を見てクシャリと歪んだ。

「ごめんなさい…」

「クソッ…!!」
 シーツに押し付けるために掴んでいたアディの細いうなじを放し、デスチーノはベッドから下りた。

 アディが流した涙が、デスチーノの怒りと発情を鎮静したのだ。


 脱ぎ捨ててあった騎士の礼装を掴むと、そのままデスチーノはアディの部屋を出て行く。


 バタンッ… と乱暴に扉が閉められる音を聞き、アディは声を上げて泣いた。








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