傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
21 / 87

20話 コンプラ―ル男爵

しおりを挟む

 エントラーダ伯爵邸から歩いて数分の村にある、伯爵家が管理する教会で、次兄の結婚式は行われることになっていた。

 アディとトルセールは、ぺちゃくちゃと楽しいお喋りをしながら教会まで来ると… 2人はお互いのパートナーのところへと行き腰を下ろした。

 トルセールは夫である長兄が坐る祭壇近くの最前列へと行き… アディは家族席の後ろに作られた、参列者用の席へと向かった。
 
 エントラーダ伯爵は、コンプラ―ル男爵の財産にはとても興味を示しているが、平民出身でベータ男性の男爵自身には嫌悪感を持っている。

 実の息子、アデレッソスと婚約させる約束はしていても、正式に結婚するまでは明確に身分の差を固持し、身内扱いはしないと決めているのだ。



「コンプラ―ル男爵様、こんにちは! 今日は良く晴れた、気持ちの良い日ですね」
 顔に笑顔を張り付けて、アディは自分の父親よりも何歳か年上の男爵に挨拶をした。

「これはアデレッソス殿、あなたの輝く瞳に比べれば、ただの青い空など負けてしまいますよ」
 でっぷりと太った赤ら顔の男爵は、身体が重くなり過ぎて、最近は膝を悪くし歩く時は杖をついていた。

 男爵が愛用する宝石がめ込まれた杖が、かたわらに立て掛けてあった。

「ふふふっ… コンプラ―ル男爵様はお優しい殿方ですね、いつもそのように僕を褒めて下さって」 

「いいえ、今日のあなたはいつもにも増して、瞳が輝いておられるから、何かとてものではないかと、思ったのですよ?」 
 穏やかな言葉とは裏腹に、コンプラ―ル男爵の目つきは鋭く、アディは男爵の言葉の中に、子種を上手く受け取ることが出来たのか? と、問い質されているのだと、気が付いた。

「はい… 今夜、その予定です」
 頬を染めてアディが答えると…

「おお、それは良かった! ちょっと失礼…」
 上着のポケットから、アルコール度数が高い蒸留酒が入った携帯用のボトルを出して、男爵はごくりと飲んだ。

 目を丸くしてアディは、男爵がお酒を飲む様子を見ていると…


「アデレッソス殿も、先に祝杯をあげますかな?」
 お酒のボトルを男爵に差し出され、強いアルコール臭が鼻につき… それだけでアディは酔ってしまいそうになった。

「い… いえ、私はあまり飲めないので…」
 アディは引きつり笑いを浮かべて、首を横に振って断った。

「そうですか?」
 ニヤリとアディに笑い掛けると… もう一口飲んでから、男爵はボトルのキャップを締めて上着のポケットへとしまう。

「男爵様はお酒がお好きなのですか?」

「ええ、酒と葉巻が大好きなので、結婚したらこれだけはあなたに我慢してもらわないとね」
 男爵は反対側の内ポケットから、金属製のてのひらサイズのケースを出して、ぱかりと中を開いてアディに3本並んだ葉巻を見せた。

「おやおや…」
 アディが苦笑していると…

「まぁ、我慢するよりも、アデレッソス殿も私と一緒に楽しんでくれると、嬉しいのですがね」

「え?! 私も葉巻を… ですか?」

「ええ、やはり嫌ですかね?」

「いえ… 私は高価な葉巻を吸ったことがありませんから、何とも言えません」

「それはいけませんね! 私と結婚したら是非ぜひ、試してみて下さい… それにあなたが飲めそうな良い酒も教えてあげますよ、酒を飲まないなんて人生を損してしまいますよ?!」

「…はい、男爵様がそう言われるのなら」

 葉巻どころかお酒でさえ、エントラーダ伯爵家では、オメガに酒の味など理解できないと…

 アディは他家の晩餐会やパーティでしか、飲酒したことが無かった。





しおりを挟む
今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
感想 40

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。 面接落ちたっぽい。 彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。 占い通りワーストワンな一日の終わり。 「恋人のフリをして欲しい」 と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。 「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

処理中です...