傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

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17話 デスチーノの事情2 デスチーノside

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 妻の話がアディの口から出た途端… デスチーノの胸の奥が急激に冷えて行った。


「アディ… 私と妻の関係はそんな美談ではないのだよ」
 オメガの誘惑フェロモンに溺れ、発情していたデスチーノの身体から熱が冷め、硬く張り詰め欲望がみなぎっていた性器からも力が抜け落ち沈黙した。

「デスチーノ?」
 無邪気に琥珀色こはくいろの瞳を輝かせたアディの、自分を見あげる視線に耐えられず、デスチーノは身体を離して目をそららした。

「当時… 私たちはまだ、結婚2年目で… 私は妻の拒絶を受け入れられなかった」

「え?!」

「まだ若く未熟だった私は… 妻に子供が出来なくても愛し合っているのだから、ベッドで抱き合うのは当然だと思っていた… だが…」


 子どもが出来ないことで、精神的に追い詰められていた妻のフーアは、デスチーノが放つアルファのフェロモンさえ感じ取れなくなっていた。

 妻のフーア自身も、オメガのフェロモンを放てなくなっていたが… 
 それでも愛し合っているのだから、デスチーノはお互いフェロモンを感じなくても愛情を深めるために、抱き合いたかったのだ。


「・・・っ!」
 ハッ… とアディは息を呑んだ。

「そうだ、私は彼に強要したんだ、私をベッドで受け入れろと!」

「奥様は… 受け入れたのですね?」

「ああ、嫌々そうしていた」

「私は彼を心地よくしようと必死に努力をしたが… 彼からの拒絶は日々、強くなり… ついに心を病んでしまった」


『嫌!! 嫌!! 触れないで!! 怖い、 嫌―――っ…!!』

『お願いだフーア! 子供が出来なくても構わない! 私を愛してくれ!! 私は君の"つがい"なのだから!!』

『"つがい"なんて知らない! 嫌! あっちへ行って!! 嫌い! あなたなんて、知らない嫌い―――っ…!!』


<フーアへの愛情など… とっくに忘れてしまったのに、"つがい"としての執着が、いまだに彼を縛り付けることにこだわってしまう>

 もう、二度と彼の肌に触れることは無いと分かっているのに、療養施設には入れず…
 今もジェレンチ公爵邸の離れにフーアを住まわせ、デスチーノは時間があれば顔を見に行っている。


「実際に彼を失ったのなら、ここまで強い執着心は抱かなかっただろうに… だからと言って、彼を失うことは耐えられない… どちらが良いのかは分からないが…」

「でも、デスチーノ… オメガなら"つがい"に強く愛されれば、幸せを感じるはずなのに?」

「彼がオメガの生殖機能を失った時… そういうたぐいの感情も全て消えてしまったのさ」

「・・・・・・」
 言葉を失うアディに、デスチーノは微笑んだ。

「私は彼のたった一人の家族だから、どちらにしても最後まで面倒を見る責任がある」

 元々は父親同士が友人で、フーアの父親が早逝そうせいしたため…
 親友の一人息子の将来を心配した先代公爵は、デスチーノの婚約者に迎え保護したのだ。

 実家である伯爵家は、フーアとは他人同然の又従兄弟またいとこが爵位と領地を継いでいて…
 フーアは帰る家をとっくに失くしている。
(又従兄弟→父親同士が従弟)




「・・・・・・」
 デスチーノの妻の話を口に出したことを後悔しているらしく、アディは涙目になっていた。

「アディ… 私の話を黙って聞いてくれてありがとう… 時々、不意に妻のことを思い出しては、1人で抱えるのが苦しくなる時があるんだ… こんな嫌な話、幸せに暮らす妹のトルセールには言えないからな」

「僕は話を聞くのは得意です! いつも家族の話を黙って聞いていますから…」
 アルファの家族に囲まれたアディは、口答えすることを許されず、一方的に話を聞かされることが多いのだ。

「そうか…」
 懸命に慰めようとするアディの姿は、やはり可愛かった。

「はい、あなたの話なら、僕は嫌な話でも良いから、何でも聞きたいです!」

 アディはデスチーノの膝に乗りギュッ… としがみ付く。

 
 可愛らしいことを言われ、アディの唇にデスチーノはたまらず甘い、甘い、キスを落とした。





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今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
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