傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
15 / 87

14話 誘惑フェロモン デスチーノside

しおりを挟む

 頭を下げて謝罪する、ふわふわとした金糸のような髪に包まれたアディの後頭部を見つめ、デスチーノは小さくため息を吐く。


「カディラ、お前はもう下がって良い」
 成人してからずっと仕えている、気心の知れた従者に、デスチーノは言葉は使わず、鋭い目顔めがおで邪魔はするなよと命令した。

「はい、公爵様失礼いたします」
 従者のカディラは一瞬ニヤリと笑い、慇懃無礼気味いんぎんぶれいぎみにお辞儀をしてその場を去った。


 デスチーノと付き合いが長い従者に、アディとの関係は何も話していないが…
 過去にデスチーノが付き合って来た愛人たちのことを、良く把握しているカディラは、アディの態度を見て大方読み取ってしまったのは、間違い無いだろう。


<カディラは口の堅い男だから… 妹のトルセールや他の誰かに告げ口することは無いが… まぁこのまま私が何度もアディと会い続ければ、どちらにしても知られていたに違いない>

 苦笑いを浮かべて、デスチーノは部屋の外を見まわし、カディラが去った後、人の気配が無いかを確認し…

「アディ、ずっとそこにいては、誰かに見られると面倒だから部屋に入りなさい」

「あっ?! は… はい! 公爵様、申し訳ありません!」
 顔を真っ赤にして、慌ててアディは再び謝罪を繰り返した。

「・・・・・・」
 すっかり萎縮いしゅくしてしまったアディの腕を引っ張り、室内に招き入れるとデスチーノは扉を閉めた。


 窓から差し込む陽光のおかげで、小さな顔だけでなく… 分厚く幅広なネックガードを装着した、アディの白いうなじが、金糸の髪の隙間すきまから、羞恥しゅうちでピンクに染まっているところまでデスチーノには見えた。

「それでアディ、本当はここに何で来たのだ?」

「あっ… あの… ええっとぉ… その… 僕は… 僕は… 昨夜、忍び込んだことを、お詫びしようと… その、あなたの顔が見たくなって…」

「んん? 詫びに来たのか、私の顔が見たかったのかどっちだ?」
 アディの緊張を解したくて、デスチーノは少しだけ揶揄からかってやる。

 増々、顔を真っ赤にして、琥珀色こはくいろの瞳に涙まで浮かべて、怯えるアディが可哀そうに見えるが… だが、その一方でとても可愛くも見えた。

 何度もお辞儀をしたせいで、乱れて目に掛かった、金糸のような前髪を、デスチーノはそっと指で払ってやると…


「あっ…!」
 薄く唇を開き、光の中でデスチーノを見上げるアディは、可愛いだけでなく…
 この上なく美しく魅力的なオメガで、デスチーノのアルファの本能が、アディは自分のものだと訴えかけて来た。

「あの… 公爵様?」

「・・・・・・」
 不安そうに見上げてくる表情まで魅力的で、そのままアディから目が離せなくなり、言葉を失ったデスチーノは熱を込めて見つめ続けると…

「あ… デスチーノ…?」
 琥珀色こはくいろの瞳を潤ませたアディの身体から、ふわりと甘いジャスミンの芳香に似た、オメガの誘惑フェロモンが立ち上る。
 
 原始的な欲望が、デスチーノの中で嵐のように激しく渦巻き、アディのうなじを今すぐ噛んで"つがい"にしろと命令した。

 ふわりと濃厚なアルファのフェロモンを放ち、デスチーノも全力でアディを誘惑する。


「ああっ…! んんっ…んんっ…!」
 デスチーノの強烈なフェロモンに圧倒され… 溺れたのか…

 アディの膝がガクリッ… と崩れ、赤い絨毯じゅうたんの上に座り込んでしまいそうになり、そうなる前にデスチーノは、細い腰を掴み抱き上げた。




しおりを挟む
今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
感想 40

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。 面接落ちたっぽい。 彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。 占い通りワーストワンな一日の終わり。 「恋人のフリをして欲しい」 と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。 「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

処理中です...